はじめに

安倍首相の経済政策「アベノミクス」が話題になってから、約5年半の月日が流れました。さらに言えば、この言葉の誕生からは10年以上もの月日が経ったことになります(実は、第一次安倍内閣が発足した2006年にはこの言葉は誕生していました)。ちなみに同語の引用元は、米国第40代大統領であるレーガンによる経済政策「レーガノミクス」(Reaganomics)とされています。

さてこの「○○ノミクス」という語形は、誰でも簡単に応用しやすいこともあり、多くの派生的な言葉を誕生させています。そもそもレーガノミクス以前にもニクソノミクス(Nixonomics、米国第37代大統領のニクソンの経済政策)という言葉がありましたし、アベノミクス以降もウーマノミクス(女性の社会進出による経済活性化)などの言葉が登場しました。

そこで今回は「ここ最近の○○ノミクス事情」について分析してみたいと思います。アベノミクスが話題になった当時の応用例と、現在の応用例を比較してみたいと思います。


2013年ごろの応用例を振り返る

まず、アベノミクスが最初に話題になった2013年頃にどのような応用例が存在していたのか。分野ごとに紹介してみることにしましょう。

第一の分野は「経済政策」としての○○ノミクスです。ニクソノミクス、レーガノミクス、アベノミクスのように、国家トップクラスの人名を冠している命名法でもあります。アベノミクスと同じ時期には、中国・李克強(り・こっきょう)首相のリコノミクス(Likonomics)が話題になりました。

また経済政策型の○○ノミクスの「亜種」として、トップ以外の人物が独自に政策名を「提言」するパターンや、既存の政策を「批判」するパターンもあります。前者の例としては「ベビノミクス」(2013年、当時の森雅子少子化担当大臣が発言した少子化対策名)、後者の例としては「アホノミクス」(2013年以降、経済学者の浜矩子がアベノミクス批判の際に用いている語)を挙げることができるでしょう。

第二の分野は「経済効果」としての○○ノミクスです。例えば2013年にはテレビドラマ「あまちゃん」の影響で、ゆかりの地である岩手県久慈市にもたらされた経済効果が「アマノミクス」とも呼ばれました。

まとめると○○ノミクスの応用例は、おおまかには「経済政策」「経済効果」のふたつのパターンが存在します。もちろん例外もあるのですが、ここでは「経済政策」「経済効果」という二大分野を押さえておいてください。

「経済政策」の○○ノミクス(1)政治家の名前

では本題です。ここ最近の○○ノミクスには、一体どんなものがあるのでしょうか? 前述した「経済政策」「経済効果」に分けて紹介しましょう。

まず「経済政策」のうち、国家トップの名前を冠するものがいくつか登場しています。例えばインド・モディ首相(2014年就任)の「モディノミクス」(Modinomics)、トルコ・エルドアン大統領(2014年就任)の「エルドアノミクス」(Erdoğanomics)、フィリピン・ドゥテルテ大統領(2016年就任)の「ドゥテルテノミクス」(Dutertenomics)、米国・トランプ大統領(2017年就任)の「トランポノミクス」(Trumponomics)、フランス・マクロン大統領(2017年就任)の「マクロノミクス」(Macronomics)、韓国・文在寅(ムン・ジェイン)大統領(2017年就任)の「Jノミクス」(J-nomics)といった命名が登場しました。これらの中には自称するものから(ドゥテルテノミクスにはロゴまで存在する)、メデイアで呼ばれたものまでいろいろありますが、とにかくこれだけの命名が行われたわけです。

もちろん日本国内でも同様の命名が行われています。昨秋「希望の党」の代表であった小池百合子氏が衆院選の公約として「ユリノミクス」なる経済政策を掲げたことも記憶に新しいところです。このように、政治家の名前を冠した○○ノミクスは、世界中で定番化した表現となりました。

「経済政策」の○○ノミクス(2)提言や批評

さて「経済政策」を表現する○○ノミクスの中には「提言」や「批判」を目的にしたものもあります。前述のベビノミクス(提言系)やアホノミクス(批判系)のような事例です。

提言系の中で個人的に面白かったのが、佐賀大学経済学部の学生が2017年12月に発表した「ワタシタチノミクス」とよばれる景気浮揚策です(参考:佐賀新聞2017年12月19日付けウェブ版「佐賀大生が『ワタシタチノミクス』発表 学生目線で景気浮揚策」)。政策評価を研究する学生たちが自分たちで経済政策を作り、それを公開講座の場でグループごとに発表する試みでした。

一方、批判系の中では、日本経済新聞に登場した「目先ノミクス」という表現が印象に残っています(2018年3月12日付けウェブ版「大機小機:『目先ノミクス』から卒業を」)。同記事では「目先(為替市場)の動きに過度にとらわれることなく、金融緩和の『出口政策』をそろそろ考慮する時期ではないか」「日銀は中央銀行としての独立性を取り戻すべきではないか」との主張を展開していました。

このように批評・提言目的の「経済政策」でも、○○ノミクスという命名法は、いまだ存在感を保ち続けています。

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