はじめに
「野村不動産のDNAを生かす」
それにしても、野村不動産はなぜこんな手間のかかる開発手法を選んだのでしょうか。北井大介・芝浦プロジェクト企画部部長は「芝浦では、その地域性から特に地元に住む人たちとともに街づくりを進めていくことを心掛けています」と話します。
東京都内の再開発といえば、丸の内や日本橋、六本木がよく知られています。ただ、これらの地域の再開発は、外から来る人をターゲットにしたもの。対して日の出は、浜松町駅周辺から田町駅周辺にかけて林立するタワーマンションに多くの世帯が住んでいます。こうした人たちをターゲットに据え、彼らの求める“住みやすい街”を実現しようというわけです。
現在の日の出ふ頭。再開発で居心地の良い空間に変わる?
また、前述のような他エリアで再開発を主導するデベロッパーは、オフィスビルや商業施設が事業の中核を占めているのに対し、野村不動産はマンション事業が主軸の不動産会社。マンション開発は購入者のさまざまな要望に応える必要があり、オフィスや商業施設に比べると手間はかかりますが、その分、野村にはそのためのノウハウが豊富に蓄積されています。
「住宅では、お客様目線を持つことが特に大切です。お客様の思いやニーズに深く寄り添い、地道にやってきた、そんな野村不動産の強み、DNAを生かしていきたい」(北井部長)
外国人の周遊ルートの中核に
来年夏のオープンに向け、具体的な作り込み作業が本格化してきた日の出ふ頭再開発。イゴコチ会議の内容を踏まえて、年明けには飲食店のコンセプトとメニューが固まる予定です。
前述のように、周辺のタワーマンションに住む地元民が主なターゲットの1つなのですが、もう1つ、主要な来場者として考えているのが外国人観光客です。日の出からは浅草とお台場方面に水上バスが運航されており、年間約100万人が利用しているといいます。
「竹芝と芝浦の間に、この日の出の施設ができることで、浜松町からグルッと回って散策できるような回遊性を高めたいと考えています。“海の玄関口”として、浅草から船で日の出まで来て、浜松町から東京タワーまで観光してもらうという考えもあります」(井組さん)
実は、この日の出ふ頭の再開発事業、芝浦運河の対岸で野村不動産グループなどが進めている大規模再開発「(仮称)芝浦一丁目計画」の関連事業という側面もあります。芝浦一丁目計画は東芝の本社ビルやJR東日本のカートレイン乗降場跡地を一体とした大規模複合再開発で、2029年度の竣工を目指しています。
芝浦一丁目計画など、周辺の再開発事業との連携を模索
具体的な策は今後の検討課題ですが、こうした広域の再開発事業と連携を取ることで日の出ふ頭への集客と賑わいの創出を図っていく方針です。「従来の不動産的視点で見ると厳しい立地ですが、船や水辺という複合的な視点で考えると、実は活用できるものが多い立地なんです」と、井組さんは意気込みます。
東京港最古のふ頭が、長年のマンション事業で培ってきた野村不動産のノウハウによってどんな輝きを放つのか。地元住民でなくても、十分に注目に値する再開発事業となりそうです。