はじめに

沙汰の意味は、どのように変化したのか?

さてここで気になるのが、現代的用法としての「沙汰」です。選り分ける意味から裁判・裁定の意味が誕生した理屈はなんとなく想像できますが(裁判とはルールとの適合性を判断して事案を選り分ける作業であるため)、そこから「狂気の沙汰」(この場合の沙汰は「行い」の意味)や「音沙汰」(この場合の沙汰は「情報」の意味)の意味が登場する経緯はちょっと想像しにくいでしょう。実は沙汰の意味が拡大していく過程は、おおむね以下のような段階に分けることができます。やや乱暴で漏れも多いまとめである点はご容赦ください。

1:水による選り分け

もともとの沙汰の意味です。

2:是非の判断・処理

政務・年貢取立・弁済・成敗などの意味。荘園(豪族・寺社の私有地)があった時代には、荘園の業務(荘務)や、その業務の中でも年貢取り立てを意味する言葉でもありました。

3:裁判・裁定

政務の中でもとりわけ裁判を意味するようになりました。「地獄の沙汰も金次第」の沙汰はこれ。また「表沙汰」(おもてざた)の本来の意味もこれです(裁判の結果が明らかになること)。

4:情報の通知

もとは裁判結果などの通知の意味。時代劇のお白州のシーンでよく聞く「追って沙汰をする」や、「音沙汰(がない)」「ご無沙汰」などの沙汰がこの意味です。

5:評判・うわさ・事件・行い

情報通知が転じて生じた意味です。「色恋沙汰」「取り沙汰」「裁判沙汰」「刃傷(にんじょう)沙汰」(刃物で人を傷つける事件)「狂気の沙汰」「手持ち無沙汰」などがこの意味です。

以上を見るとわかるのですが、段階ごとの変化の理由は、よく考えれば納得できるものばかりです。しかし1と5の意味は、一見しただけでは理解できないほど離れていますね。言葉の世界では往々、こういうことが起こるものです。

沙汰は現代語の中でも登場機会の多い表現。なのに沙汰の意味をうまく説明できない状況の背景には、こんな経緯が存在したのです。

沙汰に時々登場する「経済」

ということで今回は沙汰の語源や意味を分析しました。沙も汰も沙汰も「水による選別」という意味であること。その選別とは「米を研いだり」「砂金を見つける」作業だったこと。沙汰の意味が「水による選別」→「是非の判断・処理」→「裁判・裁定」→「情報通知」→「評判・うわさ・事件・行い」と拡大したことを紹介しました。

個人的に興味深く感じているのは、沙汰という言葉に付き添うようにして登場する「経済」の話題です。

もともと沙汰が「米や砂金」を選り分ける意味を持っていたことはもちろん、中世には荘園における「年貢取り立て業務」が沙汰と呼ばれるようになったり、裁判も「金」次第でなんとかなるという意味で沙汰が登場したり、はてには「金沙汰」(事を処理するため金が必要な状況、または金が絡む事件)という熟語も登場しました。

沙汰の守備範囲が「社会生活で起こること全般」だとするなら、それらの中に少なからず「経済の話題」も絡む――ということなのかも知れません。

この記事の感想を教えてください。