はじめに
お手伝いをした子どもに対して「お駄賃」をあげることがありますね。改めて駄賃の意味を復習すると「お手伝いのお礼として渡す、ちょっとしたお金や品物」を意味します。
この駄賃のうち「賃」の方は、皆さんもよくご存知の通り、金銭を意味する漢字です。
ではもう一方の「駄」はどういう意味なのでしょうか? 駄作、駄目などの熟語が存在することから、駄=粗悪・つまらないなどのイメージを持っている人も多いことでしょう。しかしその認識は、駄作や駄目については正しいのですが、駄賃についてはやや正確さに欠けます。
さて駄賃の駄とは、一体どういう意味なのでしょうか? 理由を読み解く鍵は、駄の字に潜む「お馬さん」が握っています。
駄は「荷馬」、駄賃は「運賃」
さっそく駄の成り立ちについて探ってみましょう。
駄という文字は、馬という偏(へん)と、太いまたは大きいという旁(つくり)によって成り立っています。これらを組み合わせると「体の大きな馬」。実は「荷物を運ぶ馬」を意味することになります。つまり、駄は「荷馬」(にうま)を意味する漢字なのです。
国語辞典で駄のつく熟語を調べてみると、荷馬の意味の駄もたくさん見つけることができます。例えば「駄鞍」(だあん)とは荷馬用の鞍(くら、人や荷物を乗せるための馬具)のこと。「駄荷」(だに)とは荷馬がのせている荷物のこと。「駄市」(だいち)とは馬を販売する市場を意味します。そして「駄馬」(だうま、だば)という言葉も「本来は」荷馬を意味します。
ここまで説明すれば、駄賃のもともとの意味が、簡単に想像できるのではないでしょうか。駄賃とは「荷馬で荷物を送るための運賃」だったのです。
駄が「粗悪」を意味する理由とは?
では、なぜ駄の字に「粗悪」や「つまらない」というイメージが付いてしまったのでしょうか?
これは非常に簡単な話で、かつての社会では「人を乗せる馬よりも、荷物を乗せる馬の方が“下等”である」と見なされたからでした。そもそも大陸から日本に馬事文化が伝わったのは、4世紀末から5世紀にかけてのこと。その当時の馬の利用方法といえば、主に乗馬か輓馬(ばんば、馬車などをひくこと)だったのです。荷役は馬事文化における二流のお仕事でした。
そこで「駄馬」という熟語も、下等な馬を意味するようになりました。日本国語大辞典(小学館)では、下等な馬の(確認できる範囲で)最古の用例として「12世紀」の文献(富家語)が登場します。つまり、駄=粗悪・つまらないというイメージは、遅くとも12世紀には登場していたのですす。
ちなみに中国語で「駄」に相当する漢字には、以上のような粗悪・つまらないの意味がありません。これは日本だけで発達した意味となります。