昨今の深刻な人手不足を背景に、企業の間では学生の「青田買い」傾向が強まっているようですね。青田買い――すなわち採用活動を行う企業が、早いうちから学生を確保する行動――が激しくなったというのです。

ところで以上の青田買いについて「青田刈り」と表現している文章を目にしたことがありませんか? これは言葉を題材にするコラムでは頻出する話題のひとつ。「このような文脈で、青田買いではなく青田刈りを使うのは誤り」とする主張を、どこかの記事で見た人もいるかも知れませんね。

今回は、企業の採用活動で登場する青田買いと青田刈りについて、その違いを徹底的に解説しましょう。

「もう言葉の意味も、使い方も知っているよ」とおっしゃる方には、加えてこんな問いも投げかけてみたいと思います。青田買いと青田刈りの混用・混同は、一体いつから続いているのでしょうか?


青田買いの収穫は、稲穂が「実った後」

まずは「青田」の意味を復習しましょう。青田とは、稲が育って青々とした田んぼのことを指します。これは逆に言えば、まだ実がなっていない状態の田んぼでもあります。

一方、「青田買い」とは、その田んぼで穫れるであろう米を、まだ田んぼが青いうちに購入することを意味します。これは先物取引の一種。そのように米を売ることを「青田売り」とも言います。

また小作制度があった時代には、小作料を滞納した小作人に対して、地主がその年に収穫予定の米をあらかじめ差し押さえることも行われていました。その行為を「青田差し押さえ」とか「立毛(たちげ)差し押さえ」と呼んでいたのだそうです。

いずれにせよ青田買いにおける収穫が、実際には稲穂が「実った後」に行われる――ということだけ、ここでは理解しておいてください。

青田刈りの収穫は、稲穂が「実る前」

ではもう一方の「青田刈り」は、どういう意味なのでしょうか?

国語辞典を調べてみると「稲をまだ熟さないうちに刈ること」(広辞苑・第七版、岩波書店)、「収穫を急ぐあまり、稲をまだ穂のでないうちに刈り取ること」(日本国語大辞典、小学館)などとあります。

ここで皆さんに注目してほしいのは、青田買いと青田刈りにおける「刈る時期」の違いです。前述の青田買いの場合、売買こそ青田の時期に行なっていたのですが、稲を刈るのはあくまで稲穂が「実った後」のことです。しかし青田刈りの場合、辞書の説明にもある通り、稲穂が「実る前」の稲を刈ってしまうわけです。

では採用活動を行う企業は、実る前と、実った後の、どちらの稲を刈り取るべきでしょうか? 言い換えると、人材として育つ前と育った後の、どちらの学生を確保すべきなのでしょうか? 普通は、育った後の学生が欲しいですよね。

ということは企業が刈り取るべきは、実った後の稲ということになります。そして実った後の稲を刈り取るやり方は、青田買いの方である、ということなのです。したがって早期の採用活動を意味する言葉としては、青田買いが適当だといえるのです。