はじめに
2.二極化の裏に資本主義経済への不信
ESG投資で信頼回復を
経済だけでなく政治など、あらゆる局面で進行する「二極化」は、資本主義経済を揺るがしかねない大きなリスクです。極端な政策を掲げるドナルド・トランプ氏が支持を集めてアメリカ大統領候補となった「トランプ現象」や、イギリス国民が決めたEU離脱に代表されるように、世界の人々が政治や経済に対する不満を溜め込み、極端な政治選択を行う例が目立ってきています。背景には資本主義経済に対する不信があり、行きすぎた市場経済にNOを突きつけていると考えられます。
株や債券など証券価格が上昇し、資産運用でリターンが得られるのは、資本主義経済が継続していくことが大前提です。世界中で二極化が進み、資本主義に対する不信や不満から市場経済が機能不全に陥ってしまえば、資産運用で利益を得ることは難しくなってしまいます。
こうした傾向に最も危機感を感じているのは、巨額の資金を運用する世界中の公的年金の運用機関です。資本主義経済に対する信頼を取り戻し、安定した運用利回りを確保するために今、彼らが注目しているのが「ESG」投資です。ESGとはEnvironmental(環境)、 Social(社会)、 Governance(ガバナンス)の略で、かつては「社会的責任投資」と呼ばれた時期もありました。環境は、エネルギー使用量や二酸化炭素(CO2)排出量削減など環境面への配慮、社会はワークライフバランスへの取り組みや女性活用など労働環境の改善、ガバナンスは情報の公開など透明性の高い企業経営を行っているか、といったことを意味します。ESGの三つの要素を満たした企業は、自らが利益をあげるだけでなく、社会に貢献し資本主義経済を持続可能にする役割を果たせる企業と判断できます。
リターンを最優先するのではなく、こうした資本主義経済を持続できる企業に投資していくESC投資は、公的年金以外にも多くの投資家の注目を集めており、こうした手法は広がりを見せていくと予想されます。前述したスマートベータの条件としても活用できるでしょう。
3.資産運用は個人の時代へ
一人ひとりに最適化した投資とスキルが必須
資産運用の「パーソナル化」も、重要なキーワードです。多くの人の資産をまとめて運用するようなスタイルが影をひそめ、投資の仕方や配分を一人ひとりの属性に応じて最適化していくことが求められています。
たとえば、従来の企業年金は、企業がリスクを負って運用し、従業員に決まった額を支払う確定給付年金が主流でした。しかし近年は、企業が決まった額を拠出し、個人がそれを自分の責任で運用する確定拠出年金が主流になっています。
そもそも、すべての人に共通してベストな運用というものはありません。その人の年齢やリスクに対する許容度、さらに資産の額や投資の目的、資金の性格、ひいては家族構成まで、数多くの要素を考慮して配分に反映させていく必要があります。
たとえば新入社員であれば、資産はなく独身で、持ち家もローンもないといった属性はほぼ共通しているのに対し、年齢を重ねるにしたがいライフスタイルや収入で幅が生じていきます。勤務先がまとめて運用するよりも、一人一人が自分に合った運用をするのは理にかなっているといえます。
しかし、ここにも問題はあります。企業型確定拠出年金を導入している企業には、従業員に対する投資教育が義務付けられていますが、これはあくまで会社に在籍している間だけです。定年退職すれば、数千万円の退職金と一緒に放りだされててしまいます。退職後こそ最も投資教育が必要な時期なのに、その機会を失ってしまうのです。
私事になりますが、先日大学の同窓会に出て退職金の話になった際、同じ大学を出ている人間でもその額にはなんと10倍以上の開きがあることがわかりました。多くの孫に恵まれた人もいれば、独身者もおり、持ち家と別荘まで持つ人もいれば借家住まいの人もいました。彼らの資産運用が同じでいいはずがありません。
要するに、最適な資産運用の形は人によってまったく異なるのに、もう収入のチャンスがない退職者がそれを設計できずに誤った投資をしてしまうと取り返しがつかない。これは今後、大きな社会問題になりうると考えています。
そうはいえても、資産運用とはまったく縁のなかった人が、突然自分に最適な運用を始めることは難しいでしょう。そこで、この溝を埋めていくための金融サービスが登場しています。
こうした新しい金融サービスの分野はアメリカが先進国で、低コストで簡単に高度な世界分散投資を実行してくれる「ロボアドバイザー投資」はかなり一般的になっています。ロボアドバイザー投資は国内でも、私が参画しているお金のデザイン「THEO(テオ)」のほか、複数のサービスが始まっていますし、「マネーフォワード」のような家計から資産管理まで一括してサポートするサービスも個人のスキルを補うサービスといえます。
また、アメリカでは投資信託ひとつとっても、投資対象ではなく目的を明確化する動きが主流になりつつあります。たとえば、「債券ファンド」ではなく、「配当を求める人のためのインカムファンド」といった売り出し方です。
こうした新しいサービスも上手に活用しながら、自分に合った投資を自分自身でデザインしていく必要性が高まっているといえるでしょう。