不妊治療のために仕事を辞めざるを得ず、その結果、収入が減る。一方で、治療技術が向上した分、オプション費用などが増え、治療費は高騰――。こうした状況下で、不妊治療のお金の問題に悩まされる人が増えているといいます。

不妊に悩む人を支援するNPO法人・Fine理事長の松本亜樹子さんに現状を伺いました。


高度化、高齢化、助成金縮小で費用増

「不妊治療と両立できず、仕事を辞めた」女性は全体の2割。辞める以外に、通院のために、正社員から時間の自由がきく派遣社員になった人などを含めると、「不妊治療と両立できず、働き方を変えた」女性は、実に4割にものぼる――。

不妊に悩む人を支援するNPO法人・Fine(ファイン)が、2017年3月〜8月にかけて、仕事をしながら不妊治療をした、もしくは考えたことがある男女5471人を対象にアンケート調査を実施。その結果、こうした現状が明らかになり、『不妊白書2018』としてまとめました。

不妊治療のために女性側が仕事を辞めたり、派遣社員といった非正規雇用に働き方を変えたりすると、カップルの収入は当然下がり、同時に様々な社会保障も失います。

一方で、不妊治療の技術は進歩して高度化した分、オプション費用などがかさむようになりました。このため、「不妊治療のために、経済的にひっぱくする人がじわじわと増しています」とFine理事長の松本亜樹子さんは指摘します(参照:「不妊治療の経済的負担に関するアンケートPart2」〔Fineによる調査〕

不妊治療では、いつ来るかわからない排卵のタイミングに合わせて、急に病院に行かねばならなかったり、薬の副作用で仕事を休まざるを得ないことが頻繁に起こります。仕事を続けるには、雇う側の企業の配慮が欠かせません。しかし、『不妊白書2018』によれば、仕事を辞めた人は「辞めたくて辞めたのではなく、辞めざるをえなかったり、周囲や上司から退職に追い込まれたりした人がほとんど」。

また、体外受精などの高度な不妊治療への国の助成金も、2016年度から43歳未満まで、回数も10回から6回までに制限・縮小されました。43歳になると体外受精での妊娠率は6.8%まで、出産率(生産率)は3%まで低下。加えて、流産率は52.4%まで上昇し、40代後半になると、約7割が妊娠しても流産しています。(日本産婦人科学会「ARTデータブック2015年」より

年齢制限は合理的な判断である一方、実際には日本で体外受精を受けた女性の4割超は40歳以上(2015年)。高齢化した分、出産まで到達できる確率は下がるので治療の回数は増えるのに、助成金を使えない人が多く、治療費は一層かさむ状態になっています。

「既に私たちの2013年時の調査「経済的負担に関するアンケート Part2」で経済的負担が増していることがわかりましたが、その主要因である、治療と両立できず、仕事を辞めるといった悩みは今年も多く寄せられています。現在、調査実施中の「経済的負担に関するアンケート Part3」でも、おそらくひっぱく度は上がっているでしょう」と松本さんは推測します。

不妊治療にかかる費用

保険適用外の治療が多い不妊治療には、そもそもお金がかかります。治療法は不妊の原因によって異なりますが、一般的には、基本検査→タイミング法→人工授精→体外受精→顕微授精と5段階を踏みます。(参照記事

タイミング法や人工授精は「一般不妊治療」、体外受精や顕微授精は「特定不妊治療」や「生殖補助医療(ART)」「高度生殖医療」と呼ばれ、特に後者の体外受精や顕微授精には保険が適用されず、高額な費用がかかります。(具体的な不妊治療の種類と費用

体外受精1回分の費用のボリュームゾーンは50万円。しかし、そこに到るまでの検査や治療、通院費用を含めたり、体外受精以降の方法をとった場合は、約100万円以上かかるとする調査報告もあります。また、回数を重ね、出産に至る体質改善のためにサプリを飲むなどしていると、最終的に全部で200万円近くを費やすことになる人がも少なくありません。気づけば、1000万円以上をつぎ込んでいたり、「妊活破産」などという言葉も聞かれるようになりました。

保険の効かない自由診療は、病院やクリニックが自由に価格を設定できるので、どの病院やクリニックを選ぶかでも費用は大きく変わり、予算を立てにくいのが不妊治療です。

自治体によっては、少子化対策の一環で国とは反対に、年齢や回数制限を撤廃したり、国の助成金に上乗せしてくれたりするところもあるため、地域格差も生まれており、さらに複雑な状況になっています。