はじめに

なぜ「アルコール離れ」?

男性の「アルコール離れ」の背景には、健康志向の強まりと飲み会などの会合の機会が減っていることが考えられます。男性のBMIは1990年代から上昇傾向にある中で(厚生労働省「国民健康・栄養調査」)、2008年から40歳以上で「特定健診・特定保健指導(いわゆるメタボ健診)」が始まりました。また、足元、企業業績は改善傾向にありますが、長らく続いた景気低迷の中で、かつてと比べて会合の機会が減っているのではないでしょうか。

若者については、情報通のデジタルネイティブは健康に関する知識が豊富で、むしろ上の年代より健康志向が高いことが考えられます。また、成熟した消費社会では、飲酒以外にも多様な楽しみがあること、そして、景気低迷の中で生まれ育った世代では、何につけても、できるだけリスクを回避する傾向が強いのかもしれません。

高齢化・人口減少の影響も

さらに、少子高齢化による人口減少の影響もあるでしょう。日本の人口は2010年をピークに減少局面に入っていますが、飲酒量が大幅に減る60代以上の人口割合は高まっています。60代以上が占める割合は、1996年では21.3%でしたが、2016年では34.0%(+6.7%)となっています(厚生労働省「人口動態調査」)。飲酒量の多い現役世代が減り、飲酒量の少ない高齢者増えていること、さらに、現役世代では飲まなくなっていることで、日本のアルコール市場は縮小しているのです。

飲むようになったのは40代以上の女性

ところで、女性では、20~30代の飲酒習慣率は低下していますが、40代以上では上昇しています。男性と比べるとお酒を飲む人数も量も少ないとはいえ、40代以上の女性では、ひと昔前よりもアルコールを飲みたいというニーズが高まっています。また、今の40~50代の女性の方が20代の男性よりも飲酒習慣率が高いことも興味深いところです。

40代以上の女性で飲酒習慣率が高まっている背景には、女性の社会進出とともに、女性が好むようなチューハイやカクテルなどの商品が充実してきたこと、また、都市部などでは女性が仕事帰りにふらっと立ち寄れるような立ち飲みバーなども増えてきたことで、女性がアルコールに触れる機会が増えたことがあるのでしょう。

若者は職場の飲み会を重視?

縮小するアルコール市場の活路は女性にあるのでしょうか。確かにニーズが高まっている40代以上の女性は魅力的なターゲットと言えます。しかし、女性でも「若者のアルコール離れ」は共通しています。

ここで興味深い調査結果をご紹介しましょう。公益財団法人日本生産性本部「2018年度新入社員春の意識調査」によると、新入社員では、友人からの誘いよりも職場の飲み会を優先する志向が高まっているそうです。2000年では職場の飲み会を優先する割合は57.5%でしたが、2018年では82.3%へと上昇しています。

なぜ新入社員は職場の飲み会を優先するようになったのでしょうか。バブル崩壊以降、長らく就職氷河期が続きました。最近は売り手市場ですが、人気のある企業の内定を得るには相変わらず厳しい競争を勝ち抜く必要があります。

新入社員では、せっかく入った会社なのだから上手くやりたい、という気持ちが高まっているのかもしれません。とはいえ、上司の誘いに長時間付き合うような「昔ながらの飲みニュケーション」は求めていないでしょう。また、飲み会の場でも若者はアルコールを飲まないのかもしれません。飲むのはノンアルコールだとしても、まずは、飲み会という名のコミュニケーションの場を作ることがアルコール市場の活路につながるのではないでしょうか。

この記事の感想を教えてください。