はじめに

前回の記事では、仕事用とプライベート用の費用を按分計算して分けるお話をしました。

フリーランスの方は、自宅とオフィスが同じケースが多いです。事務所兼自宅を借りている場合の支払家賃については、仕事用とプライベート用で按分計算して区分した上で、仕事用の家賃を経費計上できるというお話をしました。

では、フリーランスの方が事務所兼自宅を賃貸ではなく、新たに購入する場合はどうなるのでしょうか。今回は借入金と利子から住宅ローン控除に至るまで、事務所兼自宅にまつわるお話をしたいと思います。


事務所購入の借入金の利子は経費になる?

復習になりますが、税務署に対して「これは確かに仕事のために支払ったものだ」と説明できるもの、それが経費でした。税法用語では、その経費のことを「必要経費」と呼びます。顧問の税理士を雇ったときのために、この言葉は知っておいて損はないと思います。

業種にもよると思いますが、フリーランスの方が仕事をするためには事務所が必要です。事務所を購入するためには多額の購入資金が必要となります。しかし、現金で一括払いできる人は少ないでしょう。そうすると、事務所の購入資金を銀行等から借入れることになります。銀行は商売でお金を貸していますので、タダでは貸してくれません。そこで、支払わなければならない手数料が利子です。

事務所の購入資金の借入にかかる利子は、事業を行うために支払うものなので、当然、必要経費になります。ただ、事務所兼自宅の場合、必要経費にできる利子は、あくまでも仕事に使用する部分についてだけです。前回お話した合理的な按分計算を、利子についても行いましょう。借入の元本返済については、入ってきたお金をそのまま返しているだけなので、経費ではありませんのでご注意ください。

事務所として使用する建物は減価償却できる

経費として認められるのは利子だけではありません。事務所兼自宅で土地と建物を購入した場合、建物については長い時間をかけて使用し、少しずつ古くなっていくものなので、時間の経過に合わせて少しずつ経費にしていくことができます。これを税法用語で「減価償却」と呼びます。

土地は時間が経っても減価せず、経費にはなりません。また、経費になるのは建物部分のうち、あくまでも仕事用に使用する部分だけです。事務所兼自宅の場合、借入金の利子全額を必要経費にしないようご注意ください。

事務所兼自宅を購入する場合には、土地と建物の金額がいくらで、そのうちの何割を事務所として使うのかが重要です。

また、細かいお話ですが、事業をスタートさせる前に支払った利子については、すぐに経費にするのではなく、土地と建物の取得価額に含めることになります。

自宅部分は住宅ローン控除の活用を

借入で事務所兼自宅を購入する場合、実は住宅部分には減税措置が用意されています。それは、みなさんも一度は耳にされたことのある、いわゆる“住宅ローン控除”です。

住宅ローン控除とは、おおまかに言うと、個人が住宅ローンを利用してマイホームの新築・取得・増改築をしたときに、一定の要件を満たすことで、年末時点での借入残高の1%の税金を最長10年間、安くしてもらえるという制度です。

マイホームがあることで、安心した暮らしを手に入れることができますし、何より住宅が売れると日本の景気がよくなります。そのため、住宅ローン控除は大きな“減税措置”となっています。なぜ、減税措置と言ったかというと、住宅ローン控除は「所得控除」ではなく「税額控除」だからです。

所得控除は税率をかける前の所得から引いてもらえるので、【控除額×税率】分の税金が安くなります。一方、税額控除は税額からダイレクトにその金額を丸々引いてもらえるので、全額分の税金が安くなります。所得控除の種類は多いですが、「税額控除」はあまり多く用意されていませんから、住宅ローン控除は非常にお得です。適用を受けるための主な要件は、次のとおりです。

<住宅ローン控除の適用要件>
・国内の住宅を取得等すること
(海外の住宅はNG)
・住宅購入後、6ヵ月以内に住み始めること
・10年以上の金融機関等の住宅ローンであること
(親族や知人からの借入金はNG)
・合計所得金額が3千万円以下であること(毎年判定)
・建物の床面積(登記簿上の面積)が50㎡以上であること
・床面積の1/2以上が自己の居住用であること

このほかにも、細かい要件が色々あります。次の国税庁のホームページ「No.1213 住宅を新築又は新築住宅を取得した場合(住宅借入金等特別控除)」などを参考にしてみてください。

なお、控除率や限度額は、消費税の改正動向などにも左右されるため、その年によって異なります。平成33年12月31日までは、控除率が1%で、控除期間が最大10年間、借入額の限度額は4,000万円(4,000万円×1%=40万円/年)までとなっています。

住宅ローン控除の適用を受けるためには、確定申告書に明細等を添付する必要があります。また、住宅ローン控除は青色申告でなくても適用されます。

事務所兼自宅が住宅ローン控除の適用を受けるときに気をつけるべきこと

事務所兼自宅で住宅ローン控除の適用を受ける際に気を付けなければならないのは、まず、先に述べた「床面積の1/2以上が自己の居住用であること」という要件を満たすことができるかどうかです。仕事用とプライベート用にわけた場合に、半分以上がプライベート用だと言えなければ、住宅ローン控除の適用を受けることができません。

また、「建物の床面積が50㎡以上」の判定は、自宅部分だけでなく事務所も含めた全体の床面積で判定します。たとえば、100㎡の床面積のうち、50㎡がプライベート用なら、床面積の要件はクリアです。

すべての要件を満たすと、借入金のうち居住部分について、住宅ローン控除の適用があります。ここでも、またいつもの“按分計算”が出てきます。詳しい計算方法については、国税庁の質疑応答事例「店舗併用住宅を新築した場合」を参照してください。

9割が住宅使用なら全額控除できる

ちなみに、国税庁の「居住の用に供する部分の敷地の面積」よると、プライベート用の床面積に占める割合が90%以上のとき、たとえば100㎡の床面積のうち、90㎡がプライベート用なら、プライベート用100%、つまり、すべてが居住用であると考えて、住宅ローン控除を適用することができるとされています。

住宅ローン控除については、「100%として考えてあげる」というお話なので、10%部分について、事業用ではなくなってしまうとういお話ではありません。10%部分はあくまで事務所として使っているので、売上をあげるためにかかった経費は計上してください。
 
このように事務所兼自宅を借入により購入する場合は、賃貸の場合よりも色々と検討すべき論点があります。頭の片隅に入れておいていただければ、いつか役立つ日が来ると信じています。

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