はじめに

色・柄に基づく通称:裏が「真っ白」なお札

冒頭で紹介した通り、米ドル紙幣にはgreenbacks(グリーンバックス)という通称があります。これは「色や柄」に基づいて名付けられた通称ということになります。このコーナーでは日本円を中心に、色・柄系の通称について紹介してみましょう。

まずは色に基づく通称から。昭和初期の金融恐慌の際、取り付け騒ぎを沈静化する目的で急遽製造された200円札(乙号券:1927年~1946年)があります。このお札は製造を急いだせいで、印刷面が表にしかありませんでした。つまりお札の裏側は真っ白だったのです。そこでこの200円札は通称「ウラシロ」と呼ばれていました。また1945年から46年にかけて出回った、裏側が赤い柄(印刷あり)の200円札は「ウラアカ」と呼ばれていたそうです。

一方、柄に基づく通称もあります。1888年から1939年にかけて発行されていた改造五円券は、分銅(ぶんどう)の形(銀行の地図記号の形)によく似た柄が印刷されていたことから「分銅五円」という通称を持っていました。また同様の理屈で、1891年から1939年にかけて発行された改造百円券は「メガネ百円」「メガネ札」などと呼ばれていました。

前述したsawbuck(ソーバック:木挽台)も、実は柄系の命名でもあります。というのも、1862年発行の10ドル札の裏面にXの字(つまりローマ数字の10)が大きく2つ印刷されていたのです。その印象的な柄がsawbuckという通称を生んだわけです。

肖像に基づく通称:大統領オールスターズ

そして紙幣で忘れてはならないのが「肖像」の存在です。日本円の1万円札で言うところの福沢諭吉ですね。紙幣の通称には肖像に由来するものもあります。「諭吉1枚」と呼ぶような事例のことです。

米ドル紙幣における肖像系の代表例は「Benjamin」(ベンジャミン)ではないでしょうか。これは学者・政治家であり、米国建国の父とも称されるベンジャミン・フランクリン(Benjamin Franklin)のこと。彼の肖像画が現在の100ドル札に描かれているため、これを「Benjamin」「Bens」「Franklins」などと呼ぶのです。

このほか、2ドル札を意味する「Tom」(第3代ジェファーソン大統領)、20ドル札を意味する「Jackson」(第7代ジャクソン大統領)といった通称もあるほか、米ドル札を総称する「dead presidents」(死んだ大統領)という通称もあるのだそうです。

ところで紙幣に描かれるのは、なにも実在の人物だけではありません。架空の人物(例:大和武尊=やまとたけるのみこと)や、動物(例:旧一万円札のキジ)が描かれることもあります。

架空系では、明治時代の1・5・10・100円札に「大黒天」(だいこくてん)が描かれていたため、これらが「大黒札」という総称で呼ばれました。

また動物系では、やはり明治時代に流通した10円札(改造十円券)の表面に猪(いのしし)が描かれていたため「表猪」(おもていのしし)との通称をもっていました。

ちなみにこの猪は、10円札の表に描かれた和気清麻呂(わけのきよまろ)にまつわる伝説に登場する動物です。清麻呂が暗殺されかけた際、300匹の猪が現れて彼を守った――というのです(続日本書紀)。歴史上の人物と動物との関わりといえば、本コラムでは、マネーの語源になった女神モネータとガチョウの関係を思い出しますね(参考:お金と怪物の浅からぬ縁)。

通称は大きく4系統

ほかにも紙幣の通称には面白いものがたくさんあります。

1ドル札を意味する「buck」(バック:backではない)は、開拓者による物々交換の基本単位であったbackskin(バックスキン:鹿革)が語源であるとか、日本の維新直後にドイツで製造した紙幣・明治通宝(めいじつうほう)には「ゲルマン紙幣」という通称があったとか、面白い話題には事欠かないのです(これらの事例については「エピソード系」と呼ぶことにしましょう)。しかし残念ながら長くなりましたので、漏れた話題はまた別の機会に紹介しましょう。

ともあれ紙幣の通称には、額面系(金額・規模)、色・柄系、肖像系(非人物も含む)、エピソード系の4系統があることが分かったわけです。これを踏まえたうえで、次回は「硬貨の通称」も紹介してみたいと思います。紙幣と硬貨の通称にどんな傾向の違いがあるのか、じっくり分析してみましょう。どうぞお楽しみに。

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