はじめに

株価:過剰期待は禁物

金利水準と為替レートに変化がなくて、景気や企業業績への影響もないのであれば、基本的には株価への影響も限定的と見ておいたほうがよいでしょう。

先週から今週にかけて、これまで0.05%近辺で膠着していた長期金利が0.1%に上昇したことで、金利に連動しやすい銀行株や保険株が上昇しました。しかし、長期金利が変動しないことが明らかになるにつれて、徐々に元に戻る可能性が高いと思います。

またETF買い入れについて、これまでは日経平均の構成割合の高い値がさ株が上がりやすいとされてきました。日経平均連動型の買い入れ割合が低下することで、この影響度が少し薄れると期待されています。

今回の政策変更を単純計算すると、日経平均連動型ETFの買い入れ額が年間1兆円から5,000億円に減少する可能性があります。減少額は構成比率1%当たり50億円です。1取引日当たり2,000万円程度です。

小型株ならまだしも、日経平均の構成割合が高い銘柄は、いずれも時価総額が数兆円あり、1日当たり売買代金も数十億円から数百億円クラスです。1日当たり数千万円程度の買い需要減少が大きく影響するとは考えにくいでしょう。過度の期待は禁物だと思います。

残された可能性:ステルス買い入れ縮小

景気も物価も目標水準を下回ったままなのに、金融緩和策を縮小させることは、日銀には難しいでしょう。でもダラダラと今の政策を続けると、前述のような国債が市場からなくなるリスクもありますし、低金利の長期化により銀行など金融機関の収益が圧迫され続けていることも、金融システム維持の観点からはリスクが高まることになります。

一方、米FRB(連邦準備制度理事会)が利上げとともに緩やかながら資産圧縮を開始、ECB(欧州中央銀行)も資産買い入れ額の縮小を始めています。つまり、日本だけが金融緩和政策を続ける可能性が高まっています。

この状態が長期化した場合、マネーの動きが歪(いびつ)になり、バブルが発生しやすくなるリスクがありますし、再びリーマンショックのような世界的な金融ショックが起きた場合、日本は対応する手段が極めて限られることになります。


金融緩和政策が長期化する中、日銀に残された手段は少なくなっている

これらのリスクに対応するために、日銀は「ステルス・テーパリング」という手法を取る可能性があるかもしれません。具体的には、国債市場の円滑化を目的として国債買い入れ額を減少させた後、本来は市場の流動性が回復した時に買い入れ額を当初目標の水準に戻すべきところを、いつまでも戻さないことです。

表向きの理由が違うために、金融緩和策の縮小(テーパリング)に市場が気づかない(ステルス)という仕組みです。今回の長期金利変動幅の拡大は、この手法を導入するための準備ではないかという見方があります。

もし仮に日銀がこの手法を取ったとしても慌てる必要はないと思います。日銀に預けられている準備預金のうち、超過準備は6月末で389兆円あります。銀行のバランスシート(貸借対照表)を見ても、貸出金505兆円に対し、預金などの資金量は807兆円あります(5月末平均残高)。300兆円以上のマネーが余剰資金として滞留しているのです。

日銀が国債買い入れを減らして長期金利に上昇圧力が掛かっても、この余剰資金が国債買い入れに動けば、金利はすぐに0%近辺に押し戻される可能性が高いでしょう。円金利はそう簡単に上がらない構造なのです。

(文:松井証券 ストラテジスト 田村晋一)

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