はじめに
ETF(上場投資信託)は日経平均株価や東証株価指数(TOPIX)などインデックスに連動した運用成果を目指す金融商品です。初心者にも運用しやすいなどと指摘するFP(ファイナンシャル・プランナー)も少なくありません。
多くの人がメリットに挙げるのは、売買が比較的容易なこと。市場で取引が行われている時間帯ならば、株式と同様、原則としていつでも売ったり買ったりするのが可能です。
株式と同様、「背番号」ともいうべき証券コードも付いており、投資情報を提供するサイトなどでコードを入力すれば、リアルタイムで時価のチェックをすることもできます。
人気は高リスク商品が中心
上場していない投資信託とは異なり、購入の際に必要な販売会社へ支払う売買手数料が通常の株式と同等など、コスト面で割安とされるのもETFのメリットの1つ。このため、長期の資産形成に適した商品とも位置付けられています。
ただ、現在のETFのマーケットが長期投資の資金の受け皿になっているかといえば、疑問の残るところでもあります。日本銀行の金融緩和策の一環としてのETF買い入れを除けば、話題となっているのはレバレッジ型やインバース型といわれるETFばかりです。
レバレッジ型は、対象となる指数の倍の値動きをするよう設計された商品。指数が5%上昇すると、10%値上がりします。逆に5%下落すれば、値下がりも10%と2倍に膨らみます。少ない元手で大きな儲けを得ることができる反面、下落時の痛手も大きくなるというわけです。
インバース型は、指数と逆の値動きをするよう設計されたETF。指数が5%下落すると、5%値上がり。5%上昇すれば、5%値下がりするのが特徴です。先行きの相場が軟調な展開になるという相場観を持つ投資家に適した商品。下落リスクのヘッジにも有効です。
これらの商品をめぐっては、市場関係者から「短期での値幅取りを狙った投機筋の売買の対象になっている」との声が聞かれます。レバレッジ型の場合には、リスクを好む投資家が株式の信用取引やレバレッジを高めに設定した外国為替証拠金取引(FX)などと同じ感覚で手掛けている面もあるとみられます。
3ヵ月間「出来ず」の銘柄も
日本取引所グループのホームページで、東京証券取引所に上場しているETFならびにETN(上場投資証券)の売買代金を調べたところ、6月は全243のETF・ETNのうち、第1位だったのがNEXT FUNDS日経平均レバレッジ・インデックス連動投信です。
証券コードは1570。値動きが日経平均の前日比変動率の2倍になるよう設計された、レバレッジ型のETFです。
立会市場での同ETFの6月売買代金は約2兆2,430億円に達しました。同月のトヨタ自動車株の売買代金(1兆3,118億円)を上回ります。
一方で、活発な取引が行われているとは言いがたいETFもあります。当たり前のことですが、買おうと思っても、それに応じる売り注文、あるいは売ろうと考えても、買い注文がなければ売買は成立しません。
ETFは「原則として」いつでも売ったり買ったりできる、と説明したのもこのためです。実際には「出来ず」の状態が続く、流動性リスクを伴うETFが少なからず存在しています。
上のグラフはすべてのETF・ETNを対象に昨年7月以降、値の付かない営業日が1日もなかった銘柄の全体に占める比率を示したものです。
6月にすべての営業日で売買が成立したETF・ETNは約53%。243銘柄のうち、6銘柄は1日も値が付かないままでした。4~6月まで3ヵ月間、「出来ず」だったETFもあります。
新制度は風穴を開けるか
東証は流動性の向上を図ろうと、7月から「マーケットメイク」制度の導入に踏み切りました。マーケットメイクとは、指定を受けた「マーケットメーカー」と呼ばれる業者が、買いたい価格と売りたい価格を提示して売買に応じる仕組みです。
たとえば、あるETFについて1,000円の買い注文と1,001円の売り注文を提示したとしましょう。1,000円がマーケットメーカーの買い値で、1,001円の売り値です。
マーケットメーカーはあくまでも“受け身”。示した通りの価格で注文に応じる義務を負わせることで、投資家側の「売りたくても売れない、買いたくても買えない」状況を変えようという狙いがあるのです。
投資信託に詳しいJOYntの鈴木雅光代表は、マーケットメイクの効果に懐疑的です。「ETFのベンチマークになっている指数の認知度の低さが、流動性の乏しさのそもそもの原因」と見ているからです。
「多くの投資家が知っているのは日経平均とTOPIXぐらい。ETFを組成するために新たな指数を開発するなど、本末転倒の動きもあります」(鈴木代表)
新制度導入でETFのマーケットが変わるのか。まずは東証が来週公表する7月分のデータに注目が集まりそうです。