文字の墓標

お墓と同時に、葬送も急速に簡略化する傾向にある現在。究極の葬送は、葬儀をせず、火葬場での遺骨の引き取りもしない「ゼロ葬」(宗教学者の島田裕巳氏が提唱)でしょう。

後に残る家族も友人もない場合、あるいはその手をわずらわせたくない場合、この方法があります。限りなく行旅死亡人(身元不明で引き取り手のない死亡者)に近い形式です。遺骨は自治体がしかるべく処理することになり、あとには何も残りません。家族や友達がいても、自分の死で煩わせたくない、死によってすべてを無にしたいと願う人には、これも一つの方法です。

しかし、古代から人は、仲間の死を悼んできました。墓も葬式も要らないとはいえ、自分に縁のある者のために、最低限の生きた証を残しておくことは、必要かもしれません。

現代では、お墓よりも、もしかしたらその人の人生を的確に伝えるツールとなりうるのは、文字ではないでしょうか。

最近では、リアルお墓とリンクして、ライブカメラなどにより遠隔地からお墓まいりのできるサービスも各種ありますが、リアルのお墓がなく、インターネット上だけに“建立”する「ネットお墓」も存在します。

たとえば、2008年から「すがも平和霊苑」が始めた「サイバーストーン」というサービスは、写真やテキスト、年表、動画などで故人の生前の姿を保存することのできる、web上のお墓です。30年間保存保証がついて料金は15万円。生年・没年・戒名くらいしか情報のないリアルのお墓よりも、故人を身近に感じることができそうです。

ネット上にお墓を設ける代わりに、自分のアカウントを管理する人を予め決めて託しておけば、自分の死後、ブログやSNSをネット上の墓)として機能させることができます。すでにFacebookなどにはこうした取り組みがみられます。

Webのサービスの安定性が不安なら、昔ながらの「自分史」を紙に書いておいてもいいでしょう。文章が苦手でも、履歴書のような箇条書きの年代記にしてあれば十分です。凝りたいなら、自費出版してもいいでしょう。費用は10万円程度から可能です。


日本のあちこちにある巨大な古墳だって、誰のものかは十分にわかりません。ましてや江戸中期以前の庶民の墓はまれです。どんな立派な墓も、100年は続かないことを考えれば、お墓について思い煩うくらいなら、今この瞬間を最大限に生きることの方が大切だと、ご先祖様は言うかもしれませんね。

※金額等、著者調べ