はじめに

大事なことだけれど、どうしても敬遠しがちな“相続”の話。「ウチには継ぐ財産なんてないから大丈夫」と思っていても、意外なところに落とし穴があるようです。

※2021年11月、現行法令を確認し内容を更新しています。


まさかウチが申告漏れを指摘されるなんて

「まさか、自分たちが税務署から相続税の申告漏れを指摘されるとは思いませんでした」

そう話すのは、昨年に父親が亡くなり、相続を経験した山田勇一さん(仮名)。常々「遺産はない」と聞かされていたため、生前ご家族で相続について話すことはなかったそうです。それが相続税の申告漏れとは、どういうことなのでしょうか。

山田さん曰く、父親は「真面目で会社一筋なサラリーマン」だったそうです。65歳の定年まで1社に勤め上げ、退職してからは専業主婦だった母親と2人、退職金と年金で生活していました。山田さんは妹との2人兄妹。2人ともすでに結婚して家を離れていたので、ご両親は夫婦で旅行などに出かけ、リタイア後の生活を楽しんでいました。

生前、父親は「俺たちの資産は当てにするな、全部使い切って死ぬから」と、たびたび話していたそうです。山田さんも、遺産として残るのは自宅マンションくらいだから相続税はないだろうと思っていたとか。

こっそり残してくれていた遺産

相続税とは、資産を相続する際に納めなければならない税金ですが、相続する資産すべてに課税されるわけではありません。「基礎控除額」というものがあり、それを超過した分にのみ課税されます。また、お墓や公益法人へ寄附した財産などの相続税がかからない財産や、葬儀費用や住宅ローン残高などの債務としてマイナスできる財産もあります。

基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人数」で算出されます。山田さんのケースだと、法定相続人は配偶者である母親、山田さん、妹の3人となるので、基礎控除額は4,800万円。よって、課税対象となる資産合計額がこの金額を下回った場合は、相続税は納めなくてよいことになります。

しかし父親が亡くなり、実際に遺産の整理を始めてみると、まったく知らなかった資産が出てきました。山田さんと妹、それぞれの名義で1,000万円ずつの普通預金です。父親が2人に内緒で残していた預金。遺産はないと言いながらも、2人のためにわずかでもと、生前こっそり残されていたものでした。

相続の盲点「名義預金」とは?

ここで、山田さんの父親が残した財産を整理してみましょう。

(1)現金・預貯金    1,000万円
(2)自宅マンション   3,000万円
(3)死亡保険金     1,000万円
(4)子供名義の預金   2,000万円(1,000万円×2名)

(3)死亡保険金1,000万円の受取人は配偶者である母親となっていました。生命保険は「法定相続人数×500万円」までが非課税なので、母親が1,000万円全額を受け取ってもその保険金には課税されません。その代わり、母親が葬儀費用として200万円を負担することになりました。

そして(4)子供名義の預金です。山田さんと妹は、この2,000万円についてはすでに2人の名義となっていたため「生前贈与」されたものと考えました。また、この預金口座が作られ現金が預け入れられたのも今から10年前であることがわかり、贈与税の時効も成立していると判断したのです。

以上のことから山田さんは、相続財産は(1)現金・預貯金、(2)自宅マンションの合計4,000万円から葬儀費用200万円を差し引いた3,800万円であるため、基礎控除範囲内として相続税の申告及び納税を行いませんでした。

しかし後日の税務調査で、この2,000万円が「名義預金=父親が子供の名義を借りて預金をしたもの」と判断され、相続発生時に実質的には父親の財産だったとして相続税の対象財産に加算されてしまったのです。

結果、相続財産は5,800万円、基礎控除額を超える1,000万円が課税される遺産総額であると税務署から指摘を受けることになりました。
そして山田さんご家族は、合計100万円の相続税に加え、法定納期限の翌日から納付日までの延滞税と、申告を行っていなかったことへのペナルティとして無申告加算税も納付しなければなりませんでした。

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