はじめに
「コカ・コーラシステムにとって、下半期最大の重要新製品のご紹介をさせていただきます」。8月10日に開かれた日本コカ・コーラの緑茶飲料・新製品発表会の冒頭、同社の広報担当者はこう力を込めました。
急須でいれたような“にごり”を特徴とする、緑茶ブランド「綾鷹」。今年で発売11年目を迎えるロングセラー商品ですが、2008年からの10年間で販売数量は30倍以上、緑茶市場でのシェアは22ポイント以上拡大したといいます。
そんな綾鷹が新たに挑戦するジャンルは、特定保健用食品(トクホ)。会社を挙げて拡販に取り組むというこの商品で、日本コカ・コーラは何を狙っているのでしょうか。
トクホなのにおいしい緑茶
綾鷹ブランドの新商品として、9月24日に発売される「綾鷹 特選茶」。植物由来の食物繊維「難消化性デキストリン」の働きによって、脂肪の吸収を抑え、糖の吸収を穏やかにする“Wトクホ”に特長があります。
特選茶というネーミングの由来は「“特”保でも味わいで“選”ばれる緑“茶”」。難消化性デキストリンにも味があるため、単純に従来の綾鷹にトクホ成分を入れただけではおいしい味にはなりません。そこで特選茶では、茶葉の配合や製法にこだわり、トクホ成分が入っていてもおいしい緑茶を実現させたといいます。
「茶葉の種類や火の入れ方、温度など、いろいろ変えていき、うまくいきそうなところを見つけたら、その周辺を深掘りしていきました」と語るのは、開発に携わった日本コカ・コーラの成岡誠グループマネージャーです。
製品化に費やした期間は、実に3年強。このうち1年強は消費者庁での審査にかかった期間ですが、それでも実際の開発には2年近くの歳月がかかりました。「これまで綾鷹で出してきた派生製品の中では、一番たくさんの試みを行った製品です」(成岡グループマネージャー)。
“トクホ綾鷹”にこだわったワケ
なぜ、これほどまでの労力をかけて“トクホ綾鷹”の開発にこだわったのでしょうか。
トクホの緑茶飲料市場は、2003年に花王が発売した「ヘルシア緑茶」が先鞭をつけました。その後、2013年にサントリー食品インターナショナルが「伊右衛門特茶」を発売。市場規模は2012年からの5年間で2倍に拡大しました。
ただ、その5年間の伸びももっぱら前半に偏っており、ここ1~2年は市場も伸び悩み気味。その原因について、成岡グループマネージャーは「以前のようなニュースが出なくなり、マーケットが活性化しなくなったため」と分析します。
トクホ綾鷹の開発が始まった2014年4月は、ちょうどトクホ緑茶が最も勢いのあった時期。その後の市場の伸び悩みを踏まえれば、途中で開発を断念する道もあったはず。それでも製品化までこぎ着けたのは、開発チームの1つの信念でした。
「既存のトクホ緑茶は、トクホの中ではおいしくなったけれど、緑茶としてはおいしくありませんでした。トクホでも“緑茶としてのおいしさの基準”にこだわって作れば、今までと違う破壊的イノベーションが生まれるはず」(同)
緑茶としてもおいしい「トクホ2.0」
この“トクホの中でのおいしさを超えて緑茶としても十分おいしい商品”を指して、成岡グループマネージャーは「トクホ2.0」と称します。実際、この特選茶を消費者調査にかけてみたところ、味覚好意度で通常の綾鷹と遜色ない評価を得たそうです(下写真)。
日本コカ・コーラの調査では、競合他社の非トクホ緑茶よりも高い評価を獲得
特選茶のマーケティングを手掛けるティーカテゴリーの小林香予バイスプレジデントは、昨年発売された「コカ・コーラ」ブランドとして初のトクホ商品である「コカ・コーラ プラス」の仕掛け人の1人。
「プラスの時もトクホ認可を取るためにトクホ成分を入れますが、コカ・コーラの味をきちっと作りたいと思いました。今回も綾鷹として出す以上、にごりを持つ旨みを出さないといけない。飲み物である以上、機能があっても、最初に来るのは味わいであるべき。そこを重点的に訴求していきたい」と意気込みます。
綾鷹ブランドとしては、今年に入ってから「茶葉のあまみ」「ほうじ茶」と立て続けに派生商品を発売しており、飲用者数、販売本数ともにアップしているといいます。そこに満を持して投入したのがトクホです。
「緑茶、ほうじ茶の中でポートフォリオを拡充してきました。今度はトクホの緑茶でおいしい製品を出すことで、“緑茶といえば綾鷹”というブランドイメージを成長させていきたい」(成岡グループマネージャー)
機能があるのだから、トクホはマズくて当たり前――。そんなこれまでの常識を解きほぐしていけるか否かに、綾鷹ブランドの今後が懸かってきそうです。