神奈川県相模原市緑区の藤野地区のとあるパン屋さんでは、3種類の地域通貨が使えます。なぜ、わざわざ管理する手間をかけてまで地域通貨を採用しているのでしょうか。小さなパン屋から見えてきた、貨幣や電子マネーや仮想通貨とは違う、「お金のかたち」とは?


藤野の知る人ぞ知る人気のパン屋さん

新宿から特快で約1時間の中央線藤野駅を降りて、ゆっくり歩いて30分。東京と山梨の県境に接する神奈川県相模原市緑区藤野地区の「ス・マートパン」は、移住して12年目を迎える池辺澄(すみ)さんが営む小さなパン屋さん。

夫であり建築家の池辺潤一さんが設計した自宅兼工房で、酵母を起こし、成形し、早朝4時から10時頃まで8時間もかけて、一人でもくもくとパンを焼き上げます。

シンプルな角食パンやバゲット。パイナップルやクランベリーなどのさわやかな夏の菓子パン。ときには春菊やハッカ、柚子など、地元で採れた季節の野菜が使われたものも。営業は水・木曜のみ。

交通の便がいいとはいえない場所なのに、予約だけでほとんどが売り切れてしまうほど評判で、私たちが取材に行った時は、ちょうど、最後のパンを予約のお客さんが取りに来たところでした。

この小さなパン屋の面白いところは、円に加え、以下の3種類の地域通貨で支払いができることです。

よろづ屋……藤野地区の地域通貨。大きめのパンの値段の1割分を支払える。
廻(めぐり)……藤野地区にある学校法人シュタイナーズ学園の地域通貨。1廻=100円分として、1回の買い物につき1迴が利用できる。
ゆーる……藤野地区の奥地の網子地区の地域通貨。円と同じレートで全額支払いができる。

地域通貨とは、ある地域やコミュニティ内で使える通貨のこと。地域通貨には円と等価のものと、まったく連動しない価値をもつものがありますが、上の3つのうち「よろづ屋」と「迴」は後者です。そのため、「儲け」や「手間」という意味では、これらの地域通貨を採用するだけ効率が悪くなるわけですが、それでも採用している理由はなんなのでしょうか?