はじめに

円が切り捨ててしまうものをすくい取る

「ス・マートパン」では、大きなパンの代金の1割を「よろづ屋」で支払うことができますが、「よろづ屋」はいくらマイナスがついても良いシステムなので、利用者は誰でも割引になることと同じです。

これは一見店側の損のように思えるかもしれませんが、そこには、完全に円払いにすることによって切り捨てられてしまう、「信頼関係」や「お互い様の助け合いの気持ち」といった、澄さんがこれまでの移住生活の中で積み上げてきた多くのものが含まれているのです。

むしろ、「おすそ分け」から始まり、地域の人々とのつながりの中で育っていった澄さんの「ス・マートパン」が、地域通貨を導入しているのは自然な姿なのかもしれません。そして、澄さんとお客さんのやりとりを見ていると、その気持ちから来るゆとりある雰囲気が、「ス・マートパン」で買い物をする楽しさに繋がっていることがわかるのです。

「藤野に引っ越してきて、自分に何ができるかと思ったときにもらった役割のようなものがパン焼きでした。生きる価値、というと大げさかもしれないけど、それがあることで、いろんなことで心が揺れたりしたときにも、元の自分に戻ってこられるきっかけになるんです」

と、取材の最後に澄さんは今のなりわいについて語ってくれました。

毎日めまぐるしく情報が飛び交い、なかなか気を抜けない「お金」の世界に疲れたら、おいしいパンありアートあり、そして円とはお異なる「お金」のあり方が息づく藤野に足を運んでみてはいかがでしょうか。

ス・マートパン
住所:神奈川県相模原市緑区名倉534-1
営業日:水・木曜 10:30〜なくなり次第(〜9月いっぱい夏季休業)
https://sumart.exblog.jp

萬だけじゃない! 藤野で使える地域通貨

ゆーる
コミュニティが発行している紙幣タイプの地域通貨。円と等価で、円がなくなってもこの地域では「ゆーる」があれば生活できる「代替通貨」を目標としている。事務局には発行数と同僚の円がプールされており、いざとなったら円に戻すこともできるが、きちんと循環しているためあまり戻す人はいないという。円と等価なので、「ス・マートパン」をはじめ、「ゆーる」が利用できる場所では100%「ゆーる」払いが可能だ。

迴(めぐり)
藤野にあるシュタイナー学園に子供を通わせる親が利用する地域通貨。「ゆーる」と同じ紙幣タイプで、入学時に10枚配られる。情報共有の仕組みは「よろづ屋」と同じく「メグリングリスト」(メーリングリスト)にてお迎えなどのお願いごとや、譲ります・探してますなどの希望を流し、相手を探す。相手がみつかりやり取りが行われたら紙幣を渡す際に、裏に感謝のメッセージを書き込む仕組みになっていて、1迴がどんどん巡っていくとメッセージが集まりってゆき、支え合っていることを実感できる。

※1 入会費1000円(1世帯につき)が必要。ただし1000円がチャージされるわけではない。
※2 千葉県南部(鴨川市、館山市、南房総市、鋸南町、など)の通称「安房」の地に住む人々が、おもに参加している地域通貨のこと。

前半:小さなパン屋で3種類もの「地域通貨」が使える理由

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