はじめに
過去成功したやり方を組織は簡単には変更できない
それが「成功の復讐」という組織現象だ。大戸屋という組織は、他の外食よりもちょっと品質がよくてちょっとおいしい素材を使って、安心できる家庭の味の夕食を提供することで成功してきた外食チェーンである。
それが800円台のメニューを徐々にグレードアップして、今では千円台の食事を中心に提供することで固定客の心をつかんでいる。実際に客数が減っても売上がそれほど減っていないのは、減った顧客の大半が低い単価のメニューを購入してきた顧客だったということだ。
つまり残った顧客は今の大戸屋のメニューに満足しているのだ。そこに安いメニューを出そうとすればどうなるだろう?
食材か加工か接客か、どこかで品質を下げてコストを下げようとすれば、今の売上を支えてくれている顧客が離れてしまう。同じお店で低価格メニューと高価格高品質メニューを共存させるのは非常に難しいのだ。
同時にこのような試みは組織の風土にきしみを起こす。メニューを800円台に戻すぐらいまでは大衆食堂としての哲学を変えなくてもなんとかなるが、700円台以下にまで価格を落として世の中の外食チェーンと同じ土俵に降りていこうとすると、どうしても会社の哲学と異なる仕入れや営業に手を染めなければいけなくなる。そこで社内に反発が起きる。これが「成功の復讐」だ。
「変革は無理」な状況を引き起こす創業家との内紛
そのような状況での構造変革は、経営陣の強力なリーダーシップの下で行う必要がある。
「これまではこういう考え方だったけれど、環境が変わったので、これからはこういう考え方で行く」とはっきりと変革の方向性を示したうえで、価格を下げるだけでなく、食堂としての価値全体を変革していくリーダーシップが経営陣には求められる。
そのような状況なのに大戸屋の経営陣は今、内紛問題を抱えている。創業家が現在の経営陣と対立しているのだ。大戸屋は実質的な創業者が2012年に現経営陣に経営のバトンを渡したうえでお亡くなりになっている。ところがその家族が、現経営陣と大きく対立している。
大株主と経営陣の対立が起きると、他の株主を巻き込んで会社の役員人事に反対するようになる。経営陣は銀行などの株主が創業家と同調しないように、大きなリスクはとれなくなる。つまり大胆に変革の舵をとって危機を乗り切るよりも、景気の悪化のせいにして少しのマイナス成長で現状維持をしたほうが、内紛という危機は乗り切りやすくなる。
業績低迷がこのような構造的な要因になっている企業は、簡単には業績回復に期待はできない。大戸屋が回復するのはしばらくの間は非常に難しいと私は見ている。