はじめに

今回は私の連載で取り上げる、AI(人工知能)に関するお話の第3弾になります。これまでの2回(4月7日7月7日)は、投資手法に用いられるAIについて、大まかなお話をしてきました。

読者の皆さんの多くはAIの専門家ではないですから、AIの数学的な構造やアルゴリズムを知る必要はありません。しかし、世間でAIへの期待が妙に高まる中、これから私たちの生活にどんどん使われていくものです。

現実に今のAIの技術でどんなことができるのか、どのようなことが得意かは、知っておく必要があります。そうでないと世の中の流行に踊らされて、AIを過信して失敗してしまうかもしれません。

今回はAIの中で、最近注目される「文章を読むAI」の投資手法への応用のお話をします。このお話を通じて、AIの長所だけでなく、注意点も合わせて知っておいてもらいたいと思います。


AIの文章を読む技術が向上

近年のAIの大きな進歩の1つが、文章を読む技術、専門用語でいえば「自然言語処理」の進歩です。自然言語とは普段、私たちが日常で会話する言葉であり、機械が言葉を読んで処理することを指します。

新しい技術が出てくると、難しい用語が登場して「何だかすごそうだが、よくわからない」というケースも増えたりします。しかし、ほとんどがかみ砕いて言い換えられますから、そうやって直観で知っておくことが重要です。

文章を読むAIの話に戻りましょう。はたしてAIに文章を読んでもらって、どんなうれしいことがあるのでしょうか――。こんな話をすると、ちょっと疑問も湧きます。普通に人が読んでいれば十分じゃないか、と思ったりします。それに「AIが文章を読むって、実際にどんなこと?」とも思います。

AIは機械ですので、たくさんの文章を読むことができるというメリットがあります。一方で、深く読むことができないのが実態です。

AIの得意分野と不得意分野

2016年まで、わが国のAIの中心的な研究機関の1つ、国立情報学研究所で「ロボットは東大に入れるか」という研究が行われていました。しかし、最終的に東大合格は断念しました。

たくさんの知識を詰め込んだAIは忘れることはないので、単純な知識を問われる問題では正解を導きます。しかし、国語などの読解力を問われる問題では、文章のつながりを読み取ったり、問題を解釈することができないため、回答を推理して正解することが難しかったとされています。現段階のAIは、読解力を身に付けることができないのです。

今年の1月、米国のマイクロソフトと中国のアリババがそれぞれ開発した2つのAIが、米スタンフォード大で考案された読解力テストで人間の得点を上回ったと話題になりました。しかし、このテストは狭い範囲の読解力を問う試験だったためAIに有利で、実際は言葉のニュアンスを理解する能力は人間が大きく上回っているというのが専門家の見方です。

このようにAIには文章を深く理解できませんが、大きな得意分野があります。それはたくさんの文章を読むことができるうえに、文章がどの程度似ているかを客観的な数値として判断することができる点です。実際の投資手法のお話を通じて、こうした例を紹介しましょう。

アナリスト予想の意味合いとは?

運用の世界では、たとえばアナリストレポートの評価などにAIが使われます。まずはAI手法の前提として、アナリストレポートを使った投資のお話をしていきます。

上場銘柄は年に1回、本決算を発表します。多くの会社は毎年3月が年度末ですので、その3月までの年度利益がどうなったか、その利益はどのような要因で増えたか、などの集計や分析を行い、4月中旬から5月中旬にかけて決算発表します。

その際、企業の多くは次の年度の利益をどの程度見込んでいるか、つまり予想も公表します。ところが実際には、次の年の3月までの間、計画通りに利益が上げられるかどうかは不透明な部分も多いのです。

こうした中で、証券会社には「企業アナリスト」と呼ばれる仕事があります。企業の業績が将来どのようになるのかを予想して、投資家に提供する仕事です。会社が予想する利益が妥当なものかを判断しながら、レポートを発行して、アナリスト自身で予想する利益も示します。このアナリスト予想の利益も、会社予想と並んで投資家に注目されています。

一般に、会社側の利益予想は保守的になりやすいといわれます。年度が終わって確定した利益を公表する際、会社が予想していた利益より低かったとすると、投資家からガッカリされて株が大きく売られることもあります。事業がそこそこ順調な年ほど、会社は予想を保守的に見積もっておき、決算で確定した際に予想からの上振れを狙うともいわれます。

アナリストレポートに修正の予兆あり

一方、アナリストにはこうした事情もありませんから、妥当な利益予想を目指すこともできます。そして、アナリストの利益予想が上方に修正されると、好感されて株価も連動高傾向になります。

こうしたアナリストの利益予想の修正を使った運用戦略は、プロの投資家を中心に使われています。しかし、この方法もなかなか難しい点があります。それは、利益予想が上方修正されると、速やかに株価が上昇してしまうため、修正の後で投資しても、それほどの値幅が得られないということです。

そこで、AIによる自然言語処理が登場するのです。アナリストはレポートを通じて利益予想を示すのですが、利益予想の値を上方に修正する前にレポートの文面がポジティブになる傾向があります。

これは利益予想を修正するまでいかなくても、会社の利益が良い方向に向かっている時に、レポートの文面ではポジティブな話題が増えるからです。したがって、AIでレポートがポジティブか、それともネガティブかを判断することで、将来の利益予想の修正の予兆もとらえることが可能になるのです。

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