はじめに

寛永通宝~通貨の名称~

さて前項の「享保の改革」では、貨幣改鋳という話題も登場しました。このようにその時々の政権は、新貨幣の導入によって何らかの経済的・政治的な目的を達成しようとするものです。

元号が絡んでいると思われる最初の通貨名称は、前回、改元ネタのコラムでも紹介した「和同開珎」(わどうかいちん、わどうかいほう)だと思われます。朝廷が708年(和銅元年)に発行を開始した銅貨・銀貨のことです。ただし元号の「和銅」と通貨名の「和同」とで、漢字の表記が異なる点に注意が必要です。

一方で、戦国時代から江戸時代にかけて次々と登場した新通貨名も目立ちます。1588年(天正16年)に発行された金貨である「天正大判」(てんしょうおおばん)。1601年(慶長6年)に発行された金貨およぶ銀貨である「慶長金銀」(けいちょうきんぎん)。1636年(寛永13年)に発行された硬貨であり、銭形平次(ぜにがたへいじ=時代小説の主人公である岡っ引き)が投げて武器にすることでもお馴染みの「寛永通宝」(かんえいつうほう)。1695年(元禄8年)に発行された金貨および銀貨である「元禄金銀」(げんろくきんぎん)。1714年(正徳4年)に発行された金貨および銀貨である「正徳金銀」(しょうとくきんぎん)が登場しています。

また明治時代の一時期において「明治通宝」(めいじつうほう)と呼ばれる紙幣も発行されていました。ドイツの民間印刷工場で刷られた紙幣であることから「ゲルマン札」「ゲルマン紙幣」という通称もあったといいます。この紙幣の発行は、結果的に1877年(明治10年)に起こった西南戦争の戦費支出に役立ったとも言われています。

天正の石直し~税制の言葉~

最後に税制関連の言葉を観察してみましょう。

まず紹介したいのが、平安時代に発布された数々の「荘園整理令」です。復習すると、荘園とは貴族・寺社の私有地のこと。この私有地のうち、不適切な方法で私有化された土地について、その整理を行うための法令でした。これによって朝廷は国衙領(こくがりょう=公有地)の復活が見込めることになり、ひいては税収のアップも期待できるわけです。

平安時代には何度かの荘園整理令が発布されており、代表的なものだけでも902年(延喜2年)発布の「延喜(えんぎ)の荘園整理令」、1040年(長久元年)発布の「長久(ちょうきゅう)の荘園整理令」、1045年(寛徳2年)発布の「寛徳(かんとく)の荘園整理令」、1069年(延久元年)発布の「延久(えんきゅう)の荘園整理令」などが知られます。

一方、戦国時代には「天正の石直し」(てんしょうのこくなおし)という取り組みもありました。

石直しとは、田畑を測量することによって、そこで期待される収穫高(石高=こくだか)を確認し、それを年貢賦課(ねんぐふか)の基準とすることを指します。別名では石改め(こくあらため)ともいいます。

そして問題の「天正の石直し」とは、1582年(天正10年)以降に豊臣秀吉が行った全国的な石直しのこと。「太閤検地」(たいこうけんち)という呼び方ならご存知の方も多いことでしょう。この石直しでは、従来的な貫高(かんだか=土地面積や地代を通貨換算した数字)に代えて石高(収穫高)という新基準を導入したり、自己申告に頼らず測量による石高の決定を行ったり、測量のための単位を統一したりなど、いくつかの画期的な取り組みがありました。このような取り組みが、来る江戸時代の年貢制度を支えていく基盤になったわけです。

では「平成」にはどんな用語が登場したのか?

ということで今回は、元号が登場する日本史用語、そのなかでも特に経済関連の用語を紹介しました。具体的には「飢饉」「経済改革」「通貨名」「税制」といった分野で元号付きの用語が登場していていたことになります。このほかにも「債務」に関する用語(永仁の徳政令)や「不況」に関する用語(昭和恐慌)もあるのですが、ひとまずここまでとしましょう。

さてここで筆者が個人的に気になったのは、「平成」が付く日本史用語が存在するのかどうか、です。これについて山川出版社の『日本史用語集』を調べてみたところ、たったひとつ「平成不況」という言葉が載っていました。これはいわゆるバブル崩壊以後の不況のことです。

また『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』(オンライン版、ブリタニカ・ジャパン株式会社)や『日本大百科全書(ニッポニカ)』(オンライン版、小学館)を調べてみると「平成景気」という項目も載せていました。こちらの方は、いわゆるバブル景気のことを意味します。

つまり日本史用語における「平成」のイメージとは、今のところ「バブルで好景気に湧き上がり、その崩壊で不景気に沈んだ時代」というイメージなのです。この時代解釈が今後も継続するのか、あるいは、別の解釈で更新されてゆくのか。筆者としては非常に気になるところです。

参考:
「日本史用語集」全国歴史研究協議会編、山川出版社、2014年10月
「元号 年号から読み解く日本史」所功・久禮旦雄・吉野健一、文藝春秋、2018年3月など

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