「われわれにとっては“現金”が一番の競合。(決済サービスを扱う)他の事業者とお会いする際には、一緒にキャッシュレスを進めていこうと話をしています」

8月28日に都内で開かれた記者向けの説明会で、競合事業者について聞かれたアマゾンジャパンAmazon Pay事業本部の井野川拓也本部長は、笑顔でこう答えました。

EC(ネット通販)大手のアマゾンは、提供する決済サービス「Amazon Pay(アマゾンペイ)」で実店舗でのスマートフォン決済を開始すると発表しました。

政府もキャッシュレス化を推し進める中、国内ではさまざまな決済事業者が乱立しています。満を持して登場したアマゾンの店舗決済サービスは、混戦市場にどのような影響を及ぼすのでしょうか。


3クリックで使い始められる

アマゾンが新たに提供するのは、QRコードを使った店頭でのモバイル決済です。購入者は自身のモバイル端末からアマゾンショッピングアプリを起動し、QRコードを表示させます。それを店舗側が専用タブレットで読み取れば、決済が完了する仕組みです。

この機能はすでにアマゾンのショッピングアプリに内蔵されているため、これまでこのアプリで買い物をしたことがあるアマゾン会員であれば、わずか3クリックで使い始めることができます。

Amazon Pay事業本部の井野川本部長は「こういったサービスを使い始める時に障壁となるのは、特別なアプリを新たにダウンロードしたり、銀行口座やクレジットカードの登録設定をしたり、などの面倒くささです」とし、既存のアマゾン会員にとってはノーストレスで使い始めることができる状態を実現したと話します。

QRコード決済は戦国時代

購入者、特に既存のアマゾン会員にとっては、サービス導入のハードルがかなり低く設定されているアマゾンペイ。今後の普及のカギを握るのは、実店舗側がどれだけ対応端末を導入するか、です。

この決済を行うには、QRコードを読み取る実店舗側がアマゾンペイの指定する専用タブレットを導入する必要があります。この端末は、アマゾンと協業するNIPPON Tablet(ニッポンタブレット)が自社で製造・販売を行う独自商品で、利用店舗側がこの端末をレンタルしなければなりません。

現在、国内でQRコードを使うモバイル決済サービスとしては、コミュニケーションアプリを提供するLINEの「LINE Pay」やECサイト大手の楽天による「楽天ペイ」、新興フィンテック企業からも「Origami Pay」や「Pring」などが乱立。これら以外にも多数の業者が参入を発表し、熾烈な利用者獲得競争を始めています。

こうした状況下、アマゾンは店舗側導入端末のレンタル料は無料(保証サービスは別途有料)とし、さらに2018年12月末までにアマゾンペイの導入を開始すると、2020年末までの約2年間、決済手数料が無料になるサービス開始キャンペーンを展開すると発表しました。

一定期間の決済手数料無料化は他のサービス事業者も行っており、店舗争奪戦にアマゾンペイが参戦した形です。

後発でも自信満々のワケ

アマゾンペイは今回いきなり登場したサービスというわけではありません。アマゾンアカウントを利用してアマゾン以外のECサイトでも買い物ができる決済サービスとして、2015年5月にスタートしました。

購入者がECサイトを新たに利用する時、まず障壁となるのが会員登録です。個人情報を新たに入力するのは時間もかかりますし、IDやパスワードをサイト別に管理するのは面倒なもの。さらにあまり名前を聞かない企業であれば、そのセキュリティも気になります。

このような購入者側の利用に関する時間的・心理的障壁を極力下げることを実現したのが、アマゾンペイでした。

ECサイト側がアマゾンペイを導入することで、購入者は新たに会員登録をすることなく、アマゾンアカウントに登録された情報のみで購入手続きを済ませることができます。さらにクレジットカード情報はサイト側に渡らないため、セキュリティに関する懸念も払拭できるとしています。

導入企業にとっては、新規顧客の獲得や利用率の向上を見込むことができることがメリット。現在は劇団四季のチケットサイトや、ファッションECサイト最大手のzozotownにも導入されています。その導入企業数は、提供開始から約3年で数千社に上るそうです。

 購入者のスマートフォンに表示したQRコード(左)を、店舗側端末(右)で読み取る。

国内のアマゾン会員数は非公表ですが、アマゾンショッピングアプリの利用者数は月間のユニークビジター数(重複カウントしなしの訪問者数)で約3,700万人とされています。ECサイトでの普及実績、さらにはアマゾン会員という顧客基盤を武器に、実店舗での利用も急速な普及を狙います。

サービス提供目的を「アマゾンは“地球上で最もお客様を大切にする会社”を目指しています。オンライン、オフライン、デバイスという垣根を越えて、よりお客様が簡単で安心に使える利便性、購買体験を提供していきます」と語った井野川本部長。そのブランドスローガン通りに、国内QRコード決済でも覇権を握ることができるのでしょうか。

(文:編集部 瀧六花子)