はじめに

世界に類のない320人の販売組織

今回策定した三越のおもてなしは、4つの項目に分けられています。その筆頭が「人」です。

今回のリニューアルに合わせて、新たに320人規模の販売組織を編成。その中には、フードやレディスをはじめとした7つのカテゴリーに対し、90人のコンシェルジュを配置しました。その他に、女将も含めた100人のガイド、130人のお得意様担当を組み込みます。

従来の百貨店では売り場や商品ごとに従業員を配置するのが普通ですが、三越本店では新たに顧客起点でスタイリストと販売員を配置。「外商とは別に320人規模の店舗販売組織を持つ百貨店は、世界に類がないと思います」と、浅賀本店長は胸を張ります。

2項目目の「環境」では、商品展開や回遊性を重視してきた従来の手法を見直し、“おもてなし”と“くつろぎ”を優先する形で環境を作っていくといいます。

具体的には、各フロアにパーソナルショッピングデスクを配置するのに加え、1階の中央ホールにコンシェルジュの拠点であるレセプションを作ります。また、既存のラウンジとは別に、本館5階に新しいラウンジを開設。2つ合わせて1,300平方メートルのラウンジスペースを確保しました。

おもてなしをデジタルでサポート

3項目目の「サービス」では、111のサービスを新たに展開。冒頭でも例示したアパレルにおけるパーソナルカラー診断のほかにも、アートコンシェルジュはギャラリーを案内するツアーを実施。作家がどんな思いで作品を作ったのか、購入前にわかる仕掛けを施します。

最後の「商品」については、「『本物』とは『奥行き』」というキーワードを掲げ、本物・一流・逸品を取りそろえていくといいます。その商品にどれだけの物語・蘊蓄(うんちく)・こだわりがあるかを重視し、値段は二の次。どの百貨店よりもオーダー品をたくさん集め、「“オーダーの聖地”と呼ばれる店にしていきたい」と浅賀本店長は語ります。


新生三越本店の命運を握るコンシェルジュと浅賀本店長(左から6人目)

これら4項目でのおもてなしをサポートするのが、デジタルの取り組みです。これまで販売員1人1人が持っていた顧客に関する情報を一元管理。コンシェルジュやガイド、バイヤーが商品の情報とひも付けした形で共有して、1人1人の客に最適な提案を行っていく考えです。

業界の内外で競合関係が激化

三越本店がここまで大きく舵を切った背景には、百貨店を取り巻く事業環境の変化があります。過去数十年の間に、リアル店舗ではスーパー、ショッピングセンター(SC)、セレクトショップ、SPA(製造小売業)などの競合が出現。そこにEC(ネット通販)の荒波まで押し寄せています。

「百貨店には非常に厳しい時代。リアル店舗やECとの競合でこれだけ売り上げが食われてきたことで、逆に百貨店の方向性が明確になりました」(浅賀本店長)。その強みこそ、リアル店舗の空間と、そこで働く販売員だといいます。これらにデジタルを組み合わせることで、百貨店をもう一度元気にできるか、というのが三越本店のミッションというわけです。

ただ、百貨店業界だけに絞ったとしても、先行きは楽観視できません。近隣では、高島屋が大規模改装を進行中。今秋に約6万6,000平方メートルの都市型SCとして生まれ変わります。

こうした競合の動きに対し、浅賀本店長は「高島屋SCの開業で、日本橋にかなりのお客様が来て、三越にも回遊してくれます。また、高島屋はターゲットをファミリーなどに広げていますが、三越は良いお客様にたくさん来ていただけるよう、おもてなしを強化し、ターゲットを絞っていきます」と、強気の姿勢を示します。

実際、その効果は出てきているといいます。リニューアルに先行してスタートしたコンシェルジュサービスによって、もともと60代以上に多かった優良顧客が40~50代にも増えてきているそうです。

2年後に100億円の増収計画

今回の大規模リニューアルによって2020年度に100億円の売り上げ増を図るというのが、三越伊勢丹ホールディングスの計画。このうち半分をコンシェルジュで、残りの半分を商品力で上積みしたい考えです。

人に照準を絞った、これまでとは異なるアプローチで、百貨店の新たなカタチを創出できるか。345年の歴史で培ってきた三越本店の“おもてなし”の真価が試されています。

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