はじめに
東京・初台の高層ビルの一室。10人ほどの男女が、束になった資料と紙皿に載せた野菜を両手に、侃々諤々(かんかんがくがく)の議論を交わしています。
ここは、有機野菜などの宅配事業を手掛ける「らでぃっしゅぼーや」の本社。9月12日、同社が展開している伝統野菜セット「いと愛(め)づらし」のリニューアルに向けた検討会が開催されていました。
いと愛づらしの取り扱い品目がリニューアルされるのは、実に5年ぶり。しかも、100品目のうち30品目を入れ替えるという大規模なものとなります。いったいなぜ、今のタイミングで大規模リニューアルをかけるのでしょうか。
新規候補の半分が西洋野菜
ミニトマトそっくりな見た目の「ストロベリートマト(食用ほおずき)」、切り口がダビデの星に見えることから名づけられた「ダビデの星オクラ」、葉が細かく縮れていることから「ちりめんキャベツ」とも呼ばれる「サボイキャベツ」……。
検討会場には、スーパーなどではあまり目にしない珍しい野菜がズラリと並べられていました。これまでいと愛づらしで取り扱ってきたのは日本の伝統野菜が中心でしたが、今回のリニューアル候補に挙げられた30品目のうち、15品目が西洋の伝統野菜となっています。
「野菜の魅力はおいしさだけでなく、カラフルな色合いや形、食感の面白さにもあります。インスタ映えを意識する世代が広がってきたことも意識して、いろいろな角度から野菜の魅力を伝えていこうと考えています」と、らでぃっしゅぼーや・農産部の加川幹雄課長は狙いを語ります。
今回新たにリストアップされた野菜は、検討会での意見を反映し、最終的に選定。採用されたものが、順次ラインナップに入っていく予定です。すでに生産者がいる野菜は10月から販売される可能性がある一方、これから生産者を探す場合は1年以上かかるかもしれないそうです。
「味の進化にビックリ」
リストアップされた30品目の野菜のうち、加川課長のイチ押しは香川県西部の三豊市で生産されている「三豊なす」。皮が薄めで、トロッとした食感が特徴です。焼きなすやナス田楽、ソテーなどがオススメの調理法だといいます。
薄い皮とトロッとした食感が特徴の「三豊なす」
今回のリニューアルの目玉である西洋の伝統野菜では、ズッキーニのクラシックタイプとされる「ズッキーニロマネスコ」がおいしいとのこと。ナッツのような風味で、イタリアではズッキーニの最高品種とされているそうです。
フードコーディネーターや生産者、らでぃっしゅぼーや会員などから構成される検討会の出席者からは、「健康のために仕方なく野菜を食べる人もいると思いますが、こういうものが週に一度出されれば、うれしい気持ちになるのでは」「味が進化していてビックリしました。食卓に取り入れて、旦那さんや子供を驚かせたい」などの感想が聞かれました。
設立30周年だから30品目?
それにしても、5年ぶりと久しぶりリニューアルで、30品目もの入れ替えを決めた背景には、どんな事情があるのでしょうか。
いと愛づらしの前身である「種まく人」というセットがスタートしたのは1998年。2004年に現在のいと愛づらしにリニューアルされて以降も、珍しい伝統野菜には根強いファンがいるといいます。
しかし、ここ数年、らでぃっしゅぼーやで重視されてきたのは、野菜のおいしさをより前面に押し出した「チカラある野菜」というセットでした。その間、いと愛づらしのリニューアルには、あまり力が入っていなかったそうです。
そんな中で迎えた今年は、らでぃっしゅぼーやの前身である環ネットワークの設立から30周年の記念イヤー。この「30周年」にかけて、手付かずだったいと愛づらしを一気に「30品目」入れ替えてしまおうとブチ上げたのが、加川課長でした。
希少種を次世代につなげられるか
では、なぜいと愛づらしに再びフォーカスしたのかといえば、珍しい伝統野菜は1回好きになってもらえると、固定ファンになってもらえるから。「数値的な目標は特に設定していません。とにかくファンを広げていきたいと考えています」(加川課長)。
現在の購入者は40~60代の女性が中心。ここからもう少し幅広い層にも、伝統野菜の魅力を知ってもらいたいというわけです。
「希少種を次世代につなげていくのは、直接的には農家の人ですが、最終的には食べてくれる人がいないとつながっていきません。新しい食べ方の提案や伝統野菜の魅力をアピールすることが、われわれの役割」と、加川課長は語ります。
5年ぶりのテコ入れをきっかけに、知る人ぞ知る伝統野菜は今後、メジャーな存在になっていくでしょうか。いと愛づらしに注ぐ、らでぃっしゅぼーやの本気度が試されています。