はじめに

相場急落などの出来事で、最近なにかと話題の通貨・トルコリラ。この通貨を「言葉の観点」から分析することでトルコの通貨史を概観します(前編:「言葉の観点」で分析する、トルコ通貨史)。

今回は通貨名称にある「リラ」の部分に着目しましょう。ひょっとしたら読者の皆さんの中には、リラという言葉を目にして、トルコではなく「ある別の国」のことを思い出す人もいるかもしれませんね。その辺りの話も含めて、事情を説明してみたいと思います。


リラの語源は「天秤(てんびん)」

まずリラ(lira)という通貨名の語源について説明しましょう。

結論から言うと、リラの語源はラテン語のlibra(リブラ)。これは「天秤(てんびん)」を意味します。天秤座のことを英語でLibra(リブラ)と言いますが、これも同じ語源の言葉です。

このlibra(リブラ)という言葉にはもうひとつの意味もありました。それは「重量」という意味。この重量という意味が「その重さの銀(貨)」を意味するようになり、現在の「通貨単位名」になったわけです。

ではlibra(リブラ)がどうしてリラ(lira)になったのかというと「伝搬の途中にイタリア語が挟まったから」という話もあるようです。イタリア語の法則によって二重子音の最初の子音(この場合はb)が省略されリラ(lira)誕生したとみられるのです(参考:ウィキペディア「リラ(通貨)」2017年6月6日版/ランダムハウス英和大辞典、小学館など)。

以上の経緯からも推測できる通り、かつてはイタリアでもリラという名前の通貨が流通していました。ユーロ(2002年より現金が流通)が導入される以前の話です。

したがってトルコリラとイタリアリラは「同語源の通貨名」という関係にもなるのです。

かつてのナポレオン王国(1805年~1814年)でリラを使うようになったのが1807年のこと。一方、オスマン帝国(1299年~1922年)でリラを使うようになったのが1844年なので(筆者の見落とした情報がなければ)イタリアリラが先輩で、トルコリラが後輩という関係なのでしょう。

リラとポンドは親戚同士

ところでリラの歴史を語るうえで、もうひとつ、忘れてはならない通貨名があります。

それはポンド(pound)のこと。現在もイギリスポンド(通貨コードGBP)、エジプトポンド(同EGP)などの形で登場する通貨の名前です。このポンドとリラも「親戚同士」にあたる名前なのです。

ポンドの語源もやはりラテン語。重さを意味するpondoという言葉が語源です。現在でもヤード・ポンド法で重量単位としてのポンド(pound)が登場するのですが、それはこの重さのpondoに由来します。そしてこの重さの意味が「その重さの銀(貨)」の意味に変化して、通貨単位も意味するようになったのです。

さて「ポンドとリラはなぜ親戚同士なのか?」という話ですね。実はラテン語で登場する慣用的な表現に「libra pondo」(リブラポンド)という言い方があったのだそうです。これは「重さ1ポンド」という意味。この場合リブラが「重さ」を意味しており、ポンドが「量・単位」ぐらいを意味します。

このような表現があったため、ポンドとリブラ(リラ)には今でも密接な関係が存在します。例えば(のちほど詳しく説明しますが)「制度上の通貨名がポンドであるのに実生活ではリラと呼ぶ地域」も存在します。また通貨の話から離れますが、重量としてのポンドの単位が何故か「pd」ではなく「lb」であるのも、ポンドとリブラ(リラ)との関係性のせいなのです。

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