はじめに
昨日(9月26日)は3・9月決算銘柄の権利落ち日でした。日経平均は8日ぶり反落、100円近く下げて始まった後は下げ幅をじりじり縮め、大引けは24,033円と前日比93円高で終えました。155円程度の配当落ちの影響を考えれば、実質的に250円近くの上昇です。 堅調な実質10月相場のスタートとなったといえるでしょう。
しかし、脅かすつもりはありませんが、10月は株式相場の急落に注意したいものです。「トム・ソーヤーの冒険」で知られるマーク・トウェインは、10月は株式投資にとって非常に危険な月だと述べています。実際に、歴史に残る大暴落、「暗黒の木曜日(1929年)」や「ブラック・マンデー(1987年)」は10月に発生しました。
日経平均の歴代暴落ランキングを見ると、上位10回の暴落のうち、半数の5回が10月に集中して起きています。その5回のうち最大のものはブラック・マンデー、そして残りの4回はいずれも2008年の10月、すなわちリーマンショック時に記録したものでした。では、今年の10月は……?
あの相場急落前とソックリ?
いま注意したいのは米国株の調整です。米国株式市場を取り巻く投資環境は必ずしも良いものばかりではありません。悪材料のひとつは言うまでもなく貿易戦争です。
トランプ米政権は24日、約2000億ドル(約22兆円)相当の中国製品に10%の追加関税を課す対中制裁関税の第3弾を発動しました。中国も600億ドル相当の米国製品に5~10%を上乗せする報復関税を即日実施しました。中国と米国が調整していた貿易問題を巡る閣僚級協議も見送られ、事態収拾への道筋は見えないままです。
こうした貿易戦争の激化をよそに、ダウ工業株30種平均は先週、1月26日以来、約8カ月ぶりに最高値を更新しました。思い起こせば今年初め、ダウ平均は1月26日に最高値を更新した、そのわずか1週間後に665ドル安と大幅安となり、翌営業日には1日で1,500ドル安という史上最大の下げ幅を記録した急落を演じます(下図)。きっかけは賃金上昇を受けた米国長期金利の上昇でした。そして現在、状況が当時と似ているのです。
今月初めに発表された8月の米雇用統計では、平均時給が前年同月比2.9%のプラスと、およそ9年ぶりの高い伸び率になりました。米国10年債利回りは一時3.11%と5月中旬以来ほぼ4カ月ぶりの高水準を付けた場面もありました。賃金上昇率も長期金利の水準も、株価が急落した2月の水準よりも足下のほうが高いのです。
イールドスプレッドの水準を注視
株価は最高値、金利は上昇とあって金利対比の株価の割高感が台頭しています。金利対比のバリュエーションを測るには、PERの逆数である株式益利回りと国債利回りの差(=イールドスプレッド)を見るのが一般的です。
今年2月初旬の大暴落直前には、S&P500と米国10年債利回りのイールドスプレッドは3%を割り込んで2.8%まで低下していました。その後、業績の向上と株価調整でPERが下がり、金利も落ち着き、イールドスプレッドが安定的に3%台となるなかで株価はじりじりとあげてきました。そして今また2月の暴落時と同じ水準である2.8%近辺までイールドスプレッドが低下しています(下図)。
こうしたなか、27日未明に明らかになるFOMCでは、今年3回目となる利上げが見込まれます。FRBによる利上げを受けて米国の長期金利が一段と上昇すれば、イールドスプレッドは2月の急落前の水準を超えるレベルまで低下するでしょう。一層、株価の割高感が強まることには警戒が必要です。
冒頭のマーク・トウェインの言葉には続きがあります。「10月のほかに非常に危険な月は、7月と1月と2月と4月と11月と5月と3月と6月と2月と8月と9月、それになんといっても12月だ」。笑い話のようなオチですが、株式投資は10月だけでなく、いつでも急落のリスクが伴うということを改めて肝に銘じたいですね。
(文:マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木隆)