はじめに

デジタル化、モバイル化が急速に進む中国社会。スマホとともに育った多くの一人っ子は、その前の世代と仕事への考え方やライフスタイル、消費性向が大きく異なります。

1人で過ごすことにそれほど抵抗はなく、手元のスマートフォンには1人でも十分楽しめるコンテンツがたくさんあります。これまでの地縁、血縁、同僚といった“しがらみ”やその付き合いよりも自分の時間を大切にする傾向があり、「ぼっち」といえども、そこに悲壮感は感じられません。

このような状況の中で、新たな消費経済のあり方として注目されているのが、1人で楽しく、快適に過ごすための「ぼっち」消費です。


急速に広がる「ぼっち」消費

たとえば、中華レストランでは大皿で大量の料理が運ばれます。これには「食事は大人数でするもの」というのが前提にあります。

しかし、急速なデジタル化の中で育ったスマホ世代の彼らは、食事はスマホのアプリを使ってデリバリーで、1人分から頼めます。自宅で、好きなものを好きな時間に、好きなだけ食べられるのです。

たまの休みには、映画館に出向かなくても自宅で好きな時間に好きなだけ動画を見て、ネットショッピングであちこち歩きまわる必要はありませんし、自宅まで買ったものを運んでもらえます。ストレス発散には電話ボックスサイズの1人カラオケが街のあちこちにありますし、コンテナサイズの24時間営業の無人ジムもあります。

現在、こういった「ぼっち」を対象とする消費サービスが都市部を中心に急速に広まりつつあります。もはや、生活するうえで、誰かと無理に共有するという必然性はなくなっているのです。

50~60代も有力な「ぼっち」消費者に?

そもそも、中国におけるEC(ネット通販)化はどれほど進んでいるのでしょうか。中国統計局の発表によると、2017年の社会消費品・小売販売額は前年比10.4%増の約37兆元(約640兆円)でしたが、そのうち19.6%がネットによる取引となっています(下図)。

日本のEC化率がおよそ5%、米国が7%であることを考えると、中国は大変高いことがわかります。また、統計がとられた2015年は12.9%であることから、わずか2年で2割となるなど、そのスピードも大変速いといえます。

その背景として考えられるのが、スマホの普及率の高さと、スマホ決済を介した消費のEC化が全世代で進んでいる点です。

総務省情報通信白書(平成28年版)によると、「普段、私的な用途のために使用している移動端末」は、中国の場合、調査対象である20~60代においてスマホがほぼ100%を占めました。ネットショッピング、情報検索、SNS、株取引・オンラインバンキングなどについても、中国においては20~60代の世代別においてもいずれも8割以上となっています。

また、決済についても、利用率は20~30代のみならず、40代、50代で8割、60歳以上でも6割以上と全世代で高いのです(下図)。

中国の「ぼっち」消費は、20代、30代といったスマホ世代のみならず、少子高齢化が急速に進む中で、その親の40代、50代、さらには60代といった高齢者層にまで広がるポテンシャルを秘めているといえそうです。

5億人の「ぼっち」消費マーケット

20代、30代といったスマホ世代はミレニアル世代(M世代)とも呼ばれ、今後の消費を牽引していく存在として注目されています。中国の場合は規模にして5億人、人口のおよそ36%を占めています。

経済の高度成長期に誕生し、自身が社会人となってからは、平均給与は毎年10%以上の上昇、所得も毎年上昇している。多くが結婚や出産などライフイベントを迎えていることもあって、消費意欲も旺盛です。

明日は今日よりももっと良くなる、と感じられる社会で人生の大半を過ごしており、同じM世代である日本のゆとり・さとり世代(2,500万人)とは消費に対する感覚も異なるでしょう。中国では規模も消費のあり方もケタ違いの「ぼっち」消費マーケットが広がっているのです。

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