はじめに
ボリバルの由来は「歴史的英雄の名前」
では通貨ボリバルは、どうしてボリバルと名付けられたのでしょうか。
その謎を解き明かすため、再度、辞書を調べましょう。広辞苑には「ボリーバル」という項目があります。しかしこの項目は通貨名を説明する項目ではありません。人物に関する説明なのです。引用します。
「ベネズエラの軍人・政治家。クリオーリョ出身。南米の北部地域独立に貢献(後略)」
ここで触れられているのは、シモン・ボリバル(Simón Bolívar、1783年~1830年)という人物。広辞苑のようにボリーバルと表記する場合もあります。前述したベネズエラ史のうち最初の独立に関与。1819年には大コロンビアの樹立を主導して、同国の大統領にも選出された重要人物でした。このような功績から、彼には「リベルタドール」(El Libertador)すなわち「解放者」との異名もあります。
実は通貨ボルバルの名は、このシモン・ボリバルにちなんで名付けられたものだったのです。この命名の名残は、ボリバルの硬貨や紙幣に描かれた肖像画にも見ることができます。実際、今年8月導入のボリバル・ソベラノにおいても、1ボルバル・ソベラノ硬貨、50センティモ硬貨(1ボリバル・ソベラノ=100センティモ)、500ボリバル紙幣において、シモン・ボリバルの肖像画が描かれていました。このような習慣は、通貨名ボリバルが登場した1879年から現在に至るまでずっと続いています。
シモン・ボリバルが由来になった名称
このシモン・ボリバルという英雄が南米社会にいかに大きな影響を与えたのかは、彼が由来になった名称の数々からも理解できます。
その好例は、国名の「ボリビア」(Bolivia)でしょう。ボリビアといえば、南米大陸の中央に位置する内陸国。ベネズエラとはかつて大コロンビアとして同じ国であった時代もあります。シモン・ボリバルは1825年にボリビアの独立に寄与。初代大統領としても選出されました。ボリビアの名はそのシモン・ボリバルの名前に由来するわけです。
ちなみにボリビアの通貨は「ボリビアーノ」(Boliviano、通貨略称Bs、通貨コードBOB)といいます。これもやはりシモン・ボリバルを由来とする命名です。
そして実は、今回話題になっているベネズエラの正式名称も「ベネズエラ・ボリバル共和国」(República Bolivariana de Venezuela)といいます。1999年にウゴ・チャベス(1954年~2013年)が大統領に就任した際に、正式国名に「ボリバル」を加えました。
チャベス大統領といえば、強烈な反米主義により貧困層から多大な支持を得ていた人物。米大統領時代のジョージ・W・ブッシュを「悪魔」呼ばわりしたことでも有名です。彼が導入したボリバルという名称には、彼の「反米的な政治姿勢」が色濃く反映しています。
このほかにも南米各地には、シモン・ボリバルを由来とする地名・組織名・施設名などがたくさんあります。興味のある方は是非調べてみてください。
ということで今回はここまで。次回後編では、ボリバルの呼称に登場する「フエルテ」や「ソベラノ」といった言葉についても分析してみたいと思います。お楽しみに。