はじめに
ネット時代の自己実現ビジネスと今後のトレンドは?
その後、2010年代は、IOT、生活のすべてがますますインターネット化する時代を迎えましたが、そこで登場する、自己実現やおカネをめぐる様々な現象もまた、上記の複数の流れの延長線上にあることがわかります。
秒速で稼ぐといわれたネオヒルズ族は、一攫千金を夢見る言説の現代版のように見えて仕方がありません。実態としては「情報商材ビジネスと個人塾」のようですが、不労所得を目指し仲間を増やすそのマインドセットは、MLMと重なるとの指摘もあります(別冊宝島2289『洗脳のすべて』p. 48より)。
詳細はまたの機会に譲りますが、コーチングなど様々な民間心理資格の台頭からわかることは、誰もがカウンセリングを受けたい時代というよりも、誰もがカウンセラーになりたい時代になってきているということです。
インターネットによって、個人の自己実現や自己アピールの可能性が増えたことは確かでしょう。カラフルな名刺を配り、個人事業主としての成功を目指す昨今のブロガー主婦層、あるいは起業層には、もはやネットワークビジネスのような仲間づくりの仕組みは必要ではないようにも見え、その点では良い時代になったのかもしれません。
勝間和代、安藤美冬、そしてはぁちゅうといった「ライフスタイル女性文化人の系譜」からは、女性の自己実現の新たなかたちの模索が窺えます。こうした文化人らによる月額制オンラインサロンは、大学生にまで信奉者が広がってきています。ある種のカリスマ崇拝に基づきながらも「私もあの人のように変わりたい」という自己実現願望の受け皿となってきているビジネスのようです。
以上、過去四半世紀の、おカネと自己実現をめぐる現象を短く追ってみました。今後、日本人の自己実現とおカネはどうなってゆくのでしょうか。自己実現に関して言えば、時代はもはや、心理主義の次に来るものを求めているように思えてなりません。おそらく、個人の精神や文化の形成にとっても、インターネットやAIがさらに不可欠な役割を果たしてゆく時代が来るのでしょう。
心理主義的な流行の最も現代的な形態として「就活の自己分析」が存在していることを考えると、今後の優勢なトレンドとしては、安価もしくは無料で、誰もがオンラインで利用できるような実践が、主流になってゆくだろうとも考えられます。