はじめに
丸一鋼管とはどんな会社なのか
このうち、読者の方の中で丸一鋼管という会社をご存知の方はどのくらいいるでしょうか。他の3社は誰でも知っている会社ですし、時価総額も2兆~4兆円規模ですが、丸一鋼管はわずか3,000億円強です。
社名の通り、この会社は鉄鋼メーカーです。本社は大阪市で、年商は1,562億円、本業の儲けを示す営業利益は208億円(いずれも2018年3月期実績)。業界最大手の新日鉄住金と比較すると、年商は36分の1、営業利益は9分の1、時価総額は7分の1です。
上場会社全体の中でも小粒な部類に入る銘柄ですが、建設関連に強く、溶接鋼管の分野では国内首位です。現預金残高が有利子負債残高を上回る“実質無借金企業”でもあり、自己資本比率は8割を超える、好財務体質の会社です。
投資家への還元方針も明確で、自己株買いを含めた総還元性向を7割としています。会社のホームページ上にアップされているIR資料も、かなり充実しています。
決算短信は2002年3月期以降の18期分掲載されていて、ここまで掲載している会社はかなり少数派。有価証券報告書は2012年3月期からの7期分ですが、これでも上場会社全体としてはかなり載せているほうです。
過不足なく媚びもしない説明会資料
決算説明会資料はどうでしょうか。決算説明会開催は年2回で、説明会資料は2005年3月期の分からすべて掲載しています。2005年3月期の時点で、この規模の会社が決算説明会を開催していたということ自体が、かなり希有なことと言っていいでしょう。
終わった期の売上高の増減、営業利益の増減理由を連結子会社1社ずつ、費用項目ごとに説明しているだけでなく、来期予想についても同様に連結子会社1社ごとに開示しています。単体の実績もちゃんと説明しています。連結グループを構成する1社1社の状況を説明しているというのは、かなり珍しいのではないでしょうか。
中期計画の進捗状況、課題、それに対する施策もかなり個別具体的に、愚直に説明しています。奇策はなく、地道にトップラインを上げ、そこに営業利益が付いてくるというシナリオです。
設備投資計画も、どの工場に何の設備用にいくらということが、これまた1社ごとに説明されていますし、株主還元に関する方針にもブレがありません。
最近は、派手な色を使った紙芝居的な決算説明会資料を作成する会社が増えています。が、丸一鋼管の説明会資料は事実を淡々と表示したグラフと表が中心。しかも、10年前から毎年同じパターンを踏襲していて、連続性を認識しやすいのです。都合が悪くなったら見せ方を変えるということをしていません。
見た目は地味そのものです。成熟産業ですから、大きく成長するシナリオを持っているわけでもありませんが、投資家に媚びるでもなく、投資家が知りたいと思うことが過不足なく記載されています。
実直さをアナリストは評価?
この会社は設立が1947年12月、上場は1962年3月です。この時期に上場している会社には、開示姿勢に問題がある会社が多々あります。
昔は投資家が被害を受けることがないよう、非常に厳しい上場審査を通った、ごく少数の会社しか上場できませんでした。その一方で、現在のように「上場会社は投資家と向き合え」などと言われることはなく、投資家が上場会社に対してモノを言う時代ではありませんでした。
そのためか、1960~1970年代に上場している会社で、中堅以下の規模の会社の中には、今も投資家に対する感覚がその時代のままなのではないか、と思われる会社が少なからずあります。
そういう会社は未だに決算説明会を開催しないばかりか、説明資料も作成せず、決算短信もペラペラで、しかも文字サイズが大きく、業績に関する説明もスカスカ。株主を増やしたいとか、株価を上げたいとも思っていなかったりします。
それだけになおさら、古めかしい業界に身を置く丸一鋼管の実直なIR姿勢を、アナリストは評価するのではないでしょうか。公的年金への不安から、個人レベルで株式投資などによる資産運用の必要性が増している現在。社会的要請として今後、成熟産業においても丸一鋼管のようなIRのレベル向上が求められる時代となりそうです。