はじめに

バブル時代を象徴する「経済関連の言葉」――本稿ではこれを便宜的にバブル語と呼びます――を振り返る記事をお送りしております。今回はその最終回(全3回)です。第1回では経営・労働、第2回では不動産・消費の言葉を紹介しましたが、今回は「恋愛・コマーシャル」の言葉を紹介します。


恋愛のバブル語(1)アッシーの仲間、覚えていますか?

バブル時代を代表する言葉として、真っ先に思い出す言葉といえば「アッシー(君)」ではないでしょうか。

当時、若い女性の間で流行していた言葉のひとつです。その意味するところは、足(あし)代わりとして呼びつける男性(=自動車のドライバー)のことでした。類義語には、タクシー代わりを意味する「タクちゃん」という表現もあったようです。

この種の「都合の良い男性」の呼称は、アッシー以外にもいろいろありました。皆さんはそんな男性呼称を、いくつ覚えていらっしゃるでしょうか。まずアッシー並みに有名だったのは「メッシー(君)」でしょう。これは飯(めし)、すなわち食事をご馳走になる関係の男性を指していました。アッシーとメッシーはセットで覚えている人も多いと思います。

都合のよい男性呼称は、他にもありました。「みつぐ君」はお金やプレゼントを貢いでもらう関係の男性。「ベンリー(君)」や「ニッチー(君)」は便利屋的な男性のこと(ニッチは隙間の意味)。その派生である「つなぐ君」や「コード君」は、AV機器の配線を頼める男性を指しました。またアッシー君とみつぐ君の複合型とされる「ばあや君」(年老いた召使いのように、何から何まで尽くしてくれる男性)という言葉が話題になったこともあります。

そして、このような男性の最上位に君臨したのが「本命君」。その本命に届かない男性は「キープ君」などと呼ばれたわけです。

それにしてもアシ(自動車)といい、メシ(食事)といい、貢物(プレゼント)といい、ここに登場する俗語の多くは露骨に「経済的価値」が絡んでいますね。そんなところにも、バブルらしさを感じます。

恋愛のバブル語(2)「3○」という表現の登場

ところでバブル時代の恋愛事情からは「3高(さんこう)」という俗語も登場しました。これは女性が結婚相手に求める条件のこと。具体的には高身長・高学歴・高収入という3条件を指していました。

これ以来、女性が結婚相手に求める条件を「3○」などと表現する習慣が現在まで続いています。

例えばバブル崩壊の少し後には、3高の発展形である「3高3良」という表現も登場しました。高身長・高学歴・高収入に、顔良し・性格良し・家柄良しの3条件を付け加えたものでした。また同じ頃には「3強」も登場。精神的に強い、身体が強い、粘り強いの3条件を指していました。一方で「3D結婚」「3D女」といった俗語も登場。「結婚は打算、妥協、惰性の産物である」とする、ある種、諦観めいた考え方も現れました。この辺りに、バブル崩壊の影響が見え隠れします。

不景気が本格化した90年代中後期にかけては「3低」という表現も登場します。これは女性にとっての現実的な結婚相手を意味する言葉。自分より年齢が低い、年収が低い、役職が低いということを意味しました。ついには平成10年(1998年)版の厚生白書において「3C」という言葉まで登場。「3高に替わりcomfortable(十分な給料)、communicative(理解し合える)、corporative(家事に協力的)という3条件が、結婚相手の条件として浮上している」との旨の分析がなされたのです。俗語が語る価値観も、いよいよ現実味を帯びてきました。

そしてこの種の語彙は、2010年代の現在も増えています。例えば「3平」は平均的収入、平均的見た目、平穏な性格のこと。再登場の「3低」は低姿勢、低依存、低リスク(=仕事の安定)のこと。やはり再登場である「3強」は生活に強い、身体が強い、不景気に強いこと。「3温」は優しさがある、愛してくれる、安心感があること。「3生」は生存力、生活力、生産力のことを意味するのだそうです。

このような俗語の数々が、どれほどリアルな結婚条件を反映しているかは分かりません。とはいえ造語の方向性が、バブル時代の「付加価値重視」の方向から、バブル崩壊後の「基礎力重視」の方向に変化したことだけは、はっきりしているように思います。

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