はじめに
コマーシャルのバブル語「24時間戦えますか?」
バブル語の最後のテーマは「コマーシャル」の言葉です。バブル時代のコマーシャルには、当時のイケイケドンドンな雰囲気をまとった広告コピーやセリフがたくさん存在しました。
その代表例は栄養ドリンクの台詞だと思われます。実際、当時栄養ドリンクのCMからは、たくさんの流行語が登場しました。例えばグロンサンのCMで登場した「5時から男」、ユンケルのCMで登場した「ユンケルンバ ガンバルンバ」、ダダンのCMで登場した「ダダーン ボヨヨン ボヨヨン」、さらにはリゲインのCMで登場した「24時間タタカエマスカ」が、いずれも新語・流行語大賞を受賞しているのです。
そもそも栄養ドリンクのCMに元気があること自体がバブル時代を象徴していますし、そのコピーやセリフに現れている世相(仕事にもアフター5にも前のめりな時代感覚)もまたバブル時代を象徴しているわけです。
しかしそのような元気な世相は、バブル崩壊後、徐々に失われことになりました。CM分野でもっとも象徴的な出来事だったのは、かつて「24時間タタカエマスカ」と言っていたリゲインが、1999年になって「すべての疲れている人へ」と言い始めたこと。坂本龍一による静かなピアノ曲『Energy Flow』をフィーチャーしたコマーシャルでした。これを受け、同年の新語・流行語大賞は「癒やし」をトップテンに選出しています。
かつて高度経済成長時代(54年~73年)の後期にあたる70年に、富士ゼロックスが「モーレツからビューティフルへ」という広告コピーを登場させたことがあります。モーレツ(猛烈)は高度経済成長時代を象徴する俗語なのですが、それを引用する形で、過剰な経済成長へのアンチテーゼを語ったところに妙味がありました。世相に時折現れる揺り返しの好例が「モーレツからビューティフルへ」や「すべての疲れている人へ」だったのかもしれません。
まとめ~いまやバブリーは広辞苑にも載っている~
今回は全3回に分けて、バブル時代を象徴する「経済関連の言葉」の数々を紹介しました。経営、仕事、不動産、消費、恋愛、コマーシャルの各分野における注目語を紹介した次第です。
全編を簡単にまとめるならば、経営者の少なからぬ割合が「財テク」に溺れてしまい、多くの労働者が「3K」仕事を避けるようになり、反社会勢力が「地上げ」に手を染めていき、多くの消費者が「グルメ」を楽しむようになり、女性が結婚相手に「3高」を求めるようになり、CMが視聴者に対して「24時間タタカエマスカ」と鼓舞した時代が、バブル時代であったわけです。
『広辞苑』では、2008年発行の第六版から「バブリー」という言葉を乗せています。解説には「バブル経済時代のように放漫なこと。見せかけだけ派手で中身がないこと」とありました。その具体的な中身が、いま思い起こすと、以上で説明したような世相の数々だったのかもしれません。