はじめに
マンションを購入する際、できればトラブルなく生活を迎えたいものですが、購入時に知らなかったことが原因で、楽しく迎えるはずの新居での生活が一変してしまうこともあります。
そこで、今回は、マンションの購入時には知らなかった近隣工事による騒音の問題に絞って、損害賠償請求の可否を検討してみます。
騒音と損害賠償請求
損害賠償請求の相手として、まずは騒音を出している当事者、つまり、工事施工業者(あるいは依頼した施主)が考えられます。
この場面においては、工事による騒音が、一般人を基準として受任の限度を超えるか否かで判断します。
そして、受忍限度については、侵害行為の態様、侵害の程度、騒音との位置関係、防音措置が取られているか、あるいは、関係法令に違反しているかなどの事情を総合考慮して判断することになります。
例えば、建設工事に関しては、騒音規正法という法律が存在していて、騒音を伴う一定の「特定建設作業」(たとえば、くい打ち作業など)についての騒音規制をしています。
騒音規制の内容は、「特定建設作業の場所の敷地の境界線において、85デシベルを超える大きさのものではないこと」などと定められています。
工事施工業者に対する損害賠償請求(主として慰謝料請求)が認められるか否かの判断に際しては、この騒音規正法に反しているかなどの視点で総合的に検討されることになるでしょう。
マンションの売主に対する損害賠償請求の可否
その他の損害賠償請求の相手としては、マンションの売主を想定することもできます。
近隣工事による騒音被害が『瑕疵かし』(=欠陥)に該当するという主張(瑕疵担保責任)や、これを隠して売られたために損害を被ったという主張(不法行為責任)などが考えられますが、ここでは、瑕疵担保責任の追及に限定して検討してみます。
瑕疵担保責任の追及
これまでに蓄積されてきた「瑕疵」に関する裁判例によれば、瑕疵とは、物理的な欠陥に限らず、近隣環境の瑕疵や心理的な瑕疵も含まれるとされています。
つまり、マンションそのもの(防音設備も含めて)には生活上何らの支障もないけれども、例えば、近隣に暴力団事務所が存在しているような場合(環境瑕疵)や過去にその物件で殺人事件があった場合(心理的瑕疵)などにも瑕疵に該当する場合があります。
近隣での建設工事による騒音についても、環境瑕疵に該当する可能性があります。ただし、騒音があるからといって直ちに瑕疵とはなりませんので、前出の受忍限度の考え方はここでも妥当すると思われます。
なお、近隣における建設工事は、半年や1年程度のものが大半だと思いますが、その長短は瑕疵かどうかの判断にも影響するとともに、損害の大小にも影響すると考えられます。