はじめに
このところの経済ニュースは日産自動車のカルロス・ゴーン前会長に関する報道ばかりが目立ちますが、11月30日、かねてから世間を賑わせている“水増し融資”に関する2つのニュースが伝えられました。
1つは、シェアハウス向けの不正融資が発覚し、金融庁から一部業務の停止処分を受けたスルガ銀行。同行はこの日、117人の行員を懲戒処分にしたことを公表しました。
もう1つが、JR九州が第三者委員会から受領した報告書を公開したというものです。鉄道会社がなぜ、水増し融資で第三者委員会から指摘を受けることになったのでしょうか。その経緯をひも解いてみます。
不正融資の“舞台”は注文住宅
JR九州には、住宅販売を手掛ける「JR九州住宅」という子会社があります。同社が関与していた水増し融資は、スルガ銀行と同じく、住宅ローンでした。ただし、スルガ銀行のケースでは銀行が主導していましたが、JR九州住宅の場合は同社が銀行をだまして水増し融資をさせていました。
コトが発覚したのは今年10月です。JR九州住宅の社員が、顧客との建物建築請負工事の工事代金を水増しした書類を偽造して金融機関に提出。金融機関から実際に必要な金額以上の融資金を引き出した、というものです。
JR九州住宅は宅地分譲がメインの事業で、宅地を買ってくれたお客さんから注文住宅の建築も請負う注文住宅事業のほか、あらかじめ建物を建てた状態で販売する建売り事業も手掛けています。
今回発覚した事案は注文住宅です。1990年代は住宅ローンの基準が厳しかったので、購入価格(土地代+建物工事代金の合計)の8掛けや7掛けの金額しか融資してもらえませんでした。そこで購入客は、2~3割の頭金をキャッシュで用意しなければなりませんでした。
しかし近年は、住宅ローンの融資競争が激化した結果、購入価格満額どころか、そこにカーテン代など諸経費まで乗せても借りられるほど、基準は緩くなっています。こういった融資を「フルローン」というそうです。
日本人は一般に非常に真面目で、なおかつ自分が住んでいる家のローンとなると、なおのこと真面目に返済します。だから銀行も貸したいわけで、返済能力の範囲内ならできるだけ多く貸したい、という心理も働きます。今回は、そこを物件の売り手である不動産会社に突かれたわけです。
融資後に銀行が気付いて発覚
今回の事例を具体的に追ってみましょう。
住宅ローンの借り手は約1,000万円の土地に約2,300万円の家を建てる前提で、ある銀行に合計3,300万円の住宅ローンの申し込みをしたようです。しかし、借り手には約700万円の借金があり、そのためなのかどうかは定かではありませんが、この銀行の審査には通りませんでした。
営業担当者は新人だったので、こういったケースは初めてでした。そこで、先輩社員に相談をしたところ、次のような知恵を付けられたそうです。
1つは、銀行によって審査基準はいろいろだということ。もう1つは、基準が緩い銀行であれば、この顧客の世帯年収なら4,000万円くらいまで借りられるから、工事代金を水増しして銀行に伝えれば、4,000万円の融資が受けられる。そうすれば差額の700万円が浮くので、それで既存の借金を返済させてあげることもできる、というものでした。
つまり、銀行にウソをつくわけです。不安になったこの新人社員は別の先輩にも相談しますが、同じ答えが返ってきたので、実行に移したようです。
JR九州住宅とこの顧客が実際に締結した契約金額は元の2,300万円ですが、銀行は工事請負契約書の現物ではなく、FAXで送られてきたもので審査してくれたので、すんなり審査は通ってしまったといいます。
しかし後日、銀行が完成した物件の大きさやスペックの割に、施工単価が異常に高いということに気付きます。JR九州住宅の他の物件と比較すれば一目瞭然だったようです。そこで、債務者であるこの顧客に銀行が問い合わせ、コトが発覚したのです。