顧客はどこまで理解していたのか

工事請負契約書の偽造は、本物のコピーの金額欄に水増しした金額を記した紙をペタンと貼り、境界線にテープを貼ったものをFAXするという、極めて幼稚な手口でしたので、偽造自体に顧客は直接関わってはいません。

この報告書には、工事代金を水増しして住宅ローンを多めに借りるということを、新人の社員がこの顧客にどの程度説明したのか、詳細には書かれていません。しかし、700万円も多い額が振り込まれてきて、その700万円で既存の借入も返済したそうですから、当然、水増し融資を受けたのだということは理解していたはずです。

ただ、「銀行も気付いていても黙認している商慣習」くらいのレベルでの理解だった可能性はあるのではないでしょうか。

顧客の側は4,000万円のローンを真面目に返す気でいるわけですし、粛々と返済されている限り、銀行に被害はありません。そもそも700万円の借金があっても、4,000万円貸して大丈夫だという判断をこの銀行はしたわけです。

こういった住宅ローンの場合、銀行と顧客が直接顔を合わせることなく融資が実行されてしまうので、コトが発覚しないまま、滞りなく返済も続いていったとしてもおかしくありません。

銀行の審査の簡素化が不正を生む

だいぶ前になりますが、サラリーマンでありながら多数の賃貸物件を保有している、いわゆる“サラリーマン大家さん”を自称する人と知り合ったことがあります。

この人は盛んに「オーバーローン」という言葉を口にするので、一体何のことなのかと思い、よくよく聞いてみると、不動産会社に水増しした売買契約書を作成させ、それでローンの申し込みをして融資を受け、差額を頭金にして次の物件の購入に充てていたのです。

銀行はこの人がやっていることに気付いたら、間違いなく即時全額返済を求め、この人は破たんするだろうと思いました。が、ご本人はこんな話を自慢げに他人に語るくらいですから、それが不正なのだという意識はなかったようです。いずれにしても、こんな手口がまかり通るのは、銀行が住宅ローン審査を簡素化しすぎているからではないでしょうか。

住宅ローンや自動車ローンの金利は、資金使途を定めているからこそ、資金使途自由のフリーローンよりも低いのです。

特に住宅ローンは、融資したお金を使って購入した物件に担保を設定できます。それだけに審査を簡素化しても問題は起きにくく、工事請負契約書なり、売買契約書なり、融資金の資金使途を裏付ける書類の現物を確認しないので、こういった事態を引き起こすのです。

今回、この銀行は融資後に単価の異常に気付いたようですが、本来は融資実行前に気付いて当然です。フルローンとオーバーローンは紙一重ですし、営業マンは限りなく顧客のためを思ってやっているので、不正であるという自覚が薄れやすいのも事実でしょう。

読者の中で、これから住宅を買おうとされている方には、不動産会社がどういう説明をしようと、こういった手口は不正なのであって、決して乗せられてはいけないのだということを認識していただきたいです。