はじめに

アンビルトが狙う“3つのニーズ”解決

アンビルトというブランド名には「これから作られていくもの」という意味が込められています。「われわれが作ったものを提供してお勧めするというより、お客様自身が作り上げていくということ」と、尾関屋号長は既存ブランドとの違いを強調します。

ワールドには、これまでのブランドは断片的な商品の提案や販促情報の発信しかしておらず、一方通行なユーザーとの関係性が多かったという反省がありました。「メーカーがユーザーニーズの解決になるものを提供できていませんでした。アンビルトでは顧客ニーズを確認しながら形にしていきます」(同)。

尾関屋号長が指摘するユーザーニーズとは、「オフィスのカジュアル化に合わせて、どういうシーンで何を着ればいいのかという悩み」「バーチャルの手軽さだけでなく、店舗に来ることの安心感」「何を着たらいいのかわからないが、そのために時間や手間をかけたくないという思い」だといいます。

こうしたニーズに対応するため、アンビルトでこだわっているのが、初回の来店による採寸です。利便性の観点からすべてをウェブ上で完結させるオーダーサービスも増えていますが、アンビルトでは初回の注文時は店員が客の好みのフィット感をカウンセリングしながらデータを残していきます。

出資先ベンチャーの技術を最大活用

もう1つのこだわりが、ウェブ上で簡単にコーディネートのシミュレーションができるサイトのUI(ユーザー・インターフェース)です。このシステムを開発したのは、ワールドが3月に資本業務提携を結んだオムニスというベンチャー企業。本業はレンタルファッションサービスですが、社内にエンジニアを抱え、アジャイル開発に強みを持っています。

同社のノウハウを活用することで、客の反応を見ながら、サイトを素早く修正することが可能になっています。また、注文システムでも同社の技術を導入し、注文から採食で数十分後には、工場で生地の裁断が始められるといいます。


ワールドが狙う新たな事業モデル

ワールドでは、既存のブランド事業とプラットフォーム事業(工場や販売店などとの関係性を生かしたビジネス)に加えて、新たな事業展開として「投資事業」と「デジタル事業」の強化を進めています。

前者は、企業への出資やM&Aによる収益だけでなく、投資先にワールドのプラットフォームを使ってもらうことで企業価値を上げるといいもの。後者は、ワールドのデジタルプラットフォームを他社にも使ってもらい、ワールドが保有する資源とデジタルを掛け合わせた、新しいB to C事業を展開するもの。今回のアンビルトにおけるオムニスの役割は、まさにこの新たな事業モデルの先端事例というわけです。

常連客づくりへ品ぞろえにも布石

今回のアンビルトの取り組みについて、具体的な数値目標は非公表とのこと。一方で、多店舗展開を前提にしていないビジネスモデルということもあり、今後の事業の成否は会員数をいかに増やしていくかが重要になってきます。

この点について、1号店では、日々気軽に立ち寄ってもらえるよう、雑貨の構成比を高めて、オフィスで使う、少し気の利いた事務用品なども取りそろえています。「スーツをよく購入する人でも年に2回が限度。取り扱う商品の主軸はセットアップですが、それ以外で顧客と接点を持ちながら、ニーズがある時にわれわれのお店でオーダーしてもらえる布石を打っておくことが大事」と、尾関屋号長は語ります。


オーダー衣料だけでなく、事務用品も販売。顧客との接点を増やす狙い

ほかにも、家族連れやカップルで来店した男性客の同伴女性のために、女性向けの時間をつぶすアイテムも準備しています。

「若い人からシニアまで楽しんでもらえるブランドになることを期待しています」。上山社長は、新事業への意気込みをこう語ります。アンビルトの成否は、長年の売り場運営で培ったノウハウによって、リアルとネットの最適融合をどこまで進められるかに懸かってきそうです。

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