はじめに

ネット証券大手のマネックスグループが12月12日に開催した事業戦略説明会。グループの忘年会のために米国子会社の社長が来日するのに合わせて開いたというその席で、幹部から何度も口に出た言葉が「仮想通貨」「クリプトアセット(暗号資産)」でした。

今年1月に仮想通貨NEMの不正流出事件を起こし、金融庁から業務改善命令を受けた大手仮想通貨取引業者「コインチェック」。その同社を4月に買収したのが、マネックスでした(参考記事「完全詳報!マネックス『コインチェック買収』会見全容」)。

「クリプトにはトレーディングに加えて、決済から新しい資産クラス、ペイメント、記録技術と、大きなビジネスチャンスがある。収益的にも大いに期待できます」と鼻息荒く語る、マネックスグループの松本大社長。いったい、どんな事業ビジョンを描いているのでしょうか。


コインチェックは何がどう変わった?

この日の説明会に詰めかけた報道陣のPCのキーボードを叩く音が最も大きくなったのは、クリプトアセットビジネス担当の勝屋敏彦常務が説明に立った時でした。コインチェックの代表も兼務する勝屋氏は、まずマネックスにおける仮想通貨ビジネスの現状を振り返ってみせました。

当初は、自ら新会社を設立して取り組む予定だった同ビジネスですが、4月のコインチェック買収によって、一気に加速。現在、コインチェックでは「仮想通貨交換業での確固たる地位の確立」と「仮想通貨交換業に頼らない、クリプトアセットを活用したサービスの開発」に取り組んでいるといいます。

勝屋氏が考えるコインチェックの強みは、次の5つ。

1つ目は、若い世代を中心に引き付けてきた、使い勝手の良いUI(ユーザーインターフェース)とUX(顧客体験)。2つ目が、かつては13の、今も9つの仮想通貨を取り扱う源泉である、優れたマーケティング力。3つ目が、60数名のエンジニアによる、ブロックチェーンをはじめとした高い技術力。4つ目が、約100人のスタッフによるユーザーサポートの充実。そして5つ目が、マネックス参画後に強化したシステムセキュリティです。


マネックスによる買収後のコインチェックの歩み

4月の買収以降、マネックスは同社が創業以来、築き上げてきた金融機関としてのガバナンス(企業統治)をコインチェックに組み込んでいったといいます。重点的に経営資源を投入したのが、内部管理態勢とシステムリスク管理のレベルアップ。特に、サイバーリスクに対するセキュリティを高めました。

何か問題が起きた時、すぐにレスポンスできるチームを整備。リスクは組織横断的に見ていくことが重要なので、横断化のための部署も新設しました。加えて、金融機関であれば一般的な、3重の防衛ラインを構築。フロントをミドルラインがモニターし、内部監査が全体としてうまく回っているかチェックするという、自浄作用が働く体制を作り上げました。

こうした対策を経て、コインチェックは10月から新規口座開設を再開。現在は取り扱い通貨も徐々に増え、入出金や購入・売却といった全取引ができるようになりました。「有言実行の姿を見てもらい、将来的に金融庁の登録が得られるものと頑張っています」と、勝屋氏は自信をうかがわせます。

米国やアジアでも仮想通貨に食指

仮想通貨という言葉を口にしたのは、担当の勝屋氏だけではありませんでした。

米国セグメント担当のジョン・バートルマン執行役は、2019年4~6月期中に米国で仮想通貨ビジネスを始めると言及。「仮想通貨取引所の取引所」と松本社長が表現するエリスエックスには日本資本として唯一出資し、米国で構築が進む仮想通貨のエコシステム(生態系)にも参画していることをアピールしました。

日本セグメント担当の清明祐子常務は、マネックス証券とコインチェックの相互送客に期待を寄せるスピーチを展開。証券の顧客層は40歳以上が多いのに対し、コインチェックは40歳未満の顧客が多いため、互いに送客し合うことで顧客基盤が拡充できるという目論見です。

また、アジア・パシフィックセグメント担当の蓮尾聡執行役は、担当地域でICO(イニシャル・コイン・オファリング)やSTO(セキュリティ・トークン・オファリング)にチャレンジしたいと意気込みました。さらに、投資事業ではブロックチェーン関連企業にも出資し、その中で新しい技術を取り込んでいく考えです。

背景にあるのは“屋台骨”の苦戦

こうした一連の戦略の背景にあるのは、マネックスの屋台骨を支えてきた日本事業に吹く逆風です。手数料体系の見直しや口座開設プロセスの簡素化などによって、第2四半期のセグメント利益が過去最高を更新した米国事業に対し、日本事業は株売買代金の減少が響き、セグメント利益は前四半期比13%のマイナスとなっています。

「4兆円を超える預かり資産と、コインチェックとマネックス証券を併せて350万人の顧客基盤、マネックス・セゾン・バンガード投資顧問のような存在を背景に、日本セグメントのビジネスを改造していかないといけない」――。説明会の最後に、松本社長はそう決意表明しました。


仮想通貨を“第二の創業”の柱にする計画

マネックス(MONEX)という社名には、マネー(MONEY)の「Y」を1つ前に出して、未来のお金との付き合い方をデザインしていく、という意味が込められているそうです。

この日の一連の説明からは、コインチェックのグループ入りをテコにして、もはや証券会社ではなく、仮想通貨を軸とした次世代の金融サービス事業者に変わろうという、マネックスの決意がにじみ出ていたように思えました。

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