はじめに

老後をどう過ごしたいですか。

定年退職を機に仕事から離れ、悠々自適に暮らしたいですか。健康な限りフルタイムで働き、現役世代と同じくらいの報酬を得たいですか。それとも、現役の時よりも報酬は下がるものの、週3日程度働きながら自分の時間も大切にしたいですか。

定年後に選ぶライフスタイルは人によって異なりますが、年老いた先にはどんな仕事の選択肢があるのでしょうか。全国の市町村のおよそ8割に設置され、60歳以上の高齢者に仕事を提供しているシルバー人材センターに高齢者の仕事事情について聞きました。


何歳まで働く?平均年齢は72歳

「最高齢は愛知県の100歳の女性です。現在も公園の管理事務所の仕事に従事しています」と教えてくれたのは全国シルバー人材センター事業協会の福島孝業務部長です。全国に72万人いる会員のうち、約8割が現在何らかの仕事に就業中だといいます。

シルバー人材センターは、健康であれば60歳以上の誰でも会員になることができます。年齢の上限はありません。現在、70代前半の会員が最も多く、全体のおよそ4割を占めています。平均年齢は72歳。年々上がってきているそうです。

 ※2018年3月末時点

総務省の統計によると、総人口に占める65歳以上の高齢者の割合は27.7%。昭和25年から毎年記録を更新し続けています。高齢者の人口は年々増えているにもかかわらず、同センターの会員は減少傾向にあります。その理由として、福島さんは次の2つの点を挙げます。

1つは、民間企業の再雇用制度が確立され、60歳以降も継続雇用される人が格段に増えたこと。65歳を過ぎても企業との雇用関係が続いている人は少なくないといいます。政府も継続雇用年齢を70歳まで引き上げる検討を始め、60代はこれまでいた企業で継続して働き続けるのが当たり前の時代になってきているようです。

2つ目は、シルバー人材センターから提供される仕事のイメージが固定化されてしまっていること。植木の剪定、除草、駅前の駐輪場の管理、卒業証書などの筆耕作業といった従来からある限定的な仕事だけしか紹介されないと思われていることが、会員減少の要因ではないかと福島さんは推察します。

「70代に突入している団塊世代の方たちは、できれば今までの経験を活かして働きたいと思っている方が多いんです。当センターの仕事に対するそうした先入観から、自分のこれまでの経験を活かせる仕事がここにはないと思われているのではないでしょうか」

求められているのは経験を活かせる仕事

しかし、最近シルバー人材センターが紹介する仕事に変化が起きているそうです。

これまでは前述のような限定的な請負契約の仕事が多かったのですが、最近は労働者派遣契約の仕事が増えてきているといいます。発注者から指揮命令を受けない請負業務に対し、派遣業務は派遣先の企業から指揮命令を受けます。そのため、企業において一歩踏み込んだ仕事をすることができるのです。

たとえば、電機メーカーの派遣業務であれば、PC搬入や機種を入れ替えた際の初期設定、プリンターのトナーの入れ替え作業など。今までメーカーの社員がやってきた仕事を、シルバー人材センターの会員に任されるようになってきました。そのため、かつてメーカーに勤めていた会員は経験を活かして働くことができ、そうした業務を希望する人も増えてきているといいます。「経験もなく、興味の持てない仕事を無理してする必要はありません。それなら、少しでも今までの経験を活かせる仕事をした方が長続きしますから」と福島さんは話します。

育児と介護の経験を活かし、女性も活躍

女性会員の雇用の場も広がります。60代前半の女性の就業先として急激に伸びているのが、介護施設での介護補助の仕事です。具体的には、介護施設の清掃、調理補助、配膳、利用者の送迎などに従事します。

どこの介護施設も極端な人手不足で、企業からのニーズは年々高くなっているといいます。そして、ちょうどこの世代の女性は実際に介護経験のある人やヘルパーの資格保有者が多く、介護補助に就きたいという希望者も多いそうです。

同じように、保育園の保育補助もこれまでの育児経験を活かせるという面で人気の職種です。「育児経験はもちろん、お孫さんをみていた経験もあり、子どもを預けているご家庭からすると安心でき、自分の母親にみてもらっている感覚で非常に評判がいいんです」と福島さん。現役世代を支える仕事が増え、会員の就業先が拡大してきているといいます。

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