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市場に忍び寄る景気後退懸念は本物か?

市場不安心理との戦い

米国の株式市場は先週末にも大きく下落しました。現在、株式市場を巡る様々な悪材料が取りざたされています。これらの悪材料の背景にあって、市場の不安心理を増幅させている要因は、米国の景気後退懸念(リセッション入り懸念)であると思われます。

では、本当に景気は後退する局面に来ているのでしょうか。現在悪材料の1つとされている米国金利をベースに考えてみましょう。


市場に広がる景気後退懸念

10月上旬に米国の株式市場が下落した時には、米国10年国債利回りが3.2%程度まで上昇したことが、大きく影響したと思われます。金利上昇は、住宅ローン金利の上昇など、個人や企業の調達コストを上昇させ、将来の景気後退要因になる可能性があります。

また、直近12月上旬以降の悪材料として、「米国の2年国債金利と5年国債金利の逆転が影響した」という報道が目立ったように感じます。

過去2回、米国の「10年国債金利ー2年国債金利(の金利差)」がマイナスになった後に、リセッションに陥ったことは有名な話です。

しかしながら、10年2年の金利差と比較して、注目度が低いと思われる「5年国債金利ー2年国債金利(の金利差)」がマイナスになったことが株価下落の要因として大きくクローズ・アップされたことは、私には唐突に感じられました。

ここで非常に興味深いことは、10月上旬には(10年)金利の上昇が、12月上旬には(5年)金利の低下(厳密には5年・2年の金利差縮小)が、いずれも「景気後退を示唆するもの」と捉えられたと思われることです。

金利が上昇しても低下しても、どちらも「景気後退を示唆している」と解釈するのは、よく考えてみれば奇妙なことです。

ここから得られるひとつの回答としては、現在の市場の地合いが相当悪く、各材料の負の面に注目が集まっているという解釈です。

足元の市場では、トランプ大統領の「Tariff Man(筆者による仮訳:関税(を好む)人)」というツィートが、将来の米中交渉に暗雲をもたらすものとして、市場の地合いを悪化させたと思われます。

加えて、これまで政権の要だと思われた人物(ケリー大統領首席補佐官など)の交代観測もトランプ政権の不安定化を示唆していると考えることもできそうです。

トランプ大統領が株価の動きを気にしているという報道もありますが、引き続きトランプ大統領のツィート等が株価の短期的な決定要因になりそうです。

「金利差がマイナスになると景気後退」は本当?

それでは、本題に戻って、もう少し長い視点に立って、米国景気の後退懸念について考えたいと思います。

前述したように、足元の市場では、「5年国債金利ー2年国債金利(の金利差)」がマイナスになったことへの懸念が強いように思います。

まず、この現象は、2年金利が上昇するか、5年金利が下落するか、或いはその両方が発生することによって起こります。そこでまず、年限別の米国国債利回り(イールドカーブと呼ばれます)を考えたいと思います(下図)。

イールドカーブは通常、年限が長くなるに伴い金利が高くなります。しかし、12月7日 時点のイールドカーブはなだらかな状況にはなく、5年金利が前後と比較して低くなっています。5年債が通常の状況にない、と考えることもできそうです。

次に、「5年国債金利ー2年国債金利(の金利差)」がマイナスになった過去2回の時期の金利差と株価の動きを見てみましょう(下図)。


これらの図をみると、金利差が最初にマイナスになった後も相当な期間、株価が上昇していることが分かります。

景気を注視する中央銀行

経済の基礎的条件に立ち戻って考えてみても、金利差がマイナスになったことが将来の景気後退を示唆するという考え方に、私は懐疑的です。

その理由としては、現在の物価上昇の圧力は限定的であると考えていることに加え、リーマンショックの経験を踏まえたFRB(連邦準備制度理事会)は、政策金利引き上げによる景気のオーバーキル・リスク(景気を過度に押し下げるリスク)に敏感になっていると考えるからです。

現在の株式相場は、近い将来に景気が後退局面に入るリスクを相当程度織り込んでおり、これは過度な懸念であると私は考えます。

経済成長が、いつかはマイナスになることは自然なことですが、これがいつ起こるかを見極めることが投資においては、重要であると考えます。

<文:チーフ・グローバル・ストラテジスト 柏原延行>

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