はじめに

社会保障負担への不満が根底に

対応策は以下の4点。(1)「SMIC」と呼ばれる最低賃金を月100ユーロ引き上げる、(2)残業手当を非課税にする、(3)収入が月2,000ユーロ未満の年金生活者を対象に「一般社会拠出金(CSG)」など社会保障関連の税の引き上げを凍結、(4)企業に対して年末のボーナス支払いを促す、という内容です。

これで事態が収束へ向かうかは流動的です。リヨンで話を聞いてみると、特に社会保障関連の費用負担の大きさに対して不満を抱いている人が少なくないといいます。

4つの対策のうち、残業手当に対する非課税措置はニコラ・サルコジ元大統領が2007年に導入した経緯があります「より多く稼ぐためには、より多く働こう」とフランス人を鼓舞するのが狙いでした。しかしその後、フランソワ・オランド前大統領は同措置を取りやめました。失業者の増加を食い止めようと、いわゆる「ワークシェアリング」を優先したためです。

マクロン大統領の演説について、ジレ・ジョーヌを着た1人はフランスのテレビ局のインタビューに答え、「フランスの皆が失望している。われわれはだまされない」などと怒りをあらわにしました。

フランス経済への影響は?

一連の大規模なデモはフランスの経済に大きな打撃を与えそうです。パリといえば、世界随一の観光都市。ホテルの予約キャンセルなどが相次いでいます。乱入した一部のデモ隊に店内を踏み荒らされた商店の経営者も、頭を抱えています。

フランスのニュース専門局BFMTVによれば、40%余りの人がクリスマスのプレゼントをオンラインで購入すると考えているそうです。むろん、これは新たな略奪行為の発生などを恐れているからです。ブリュノ・ル・メール経済相は今回のデモが同国の第4四半期(10~12月)の国内総生産(GDP)を0.1%押し下げるとの見通しを明らかにしました。

財政への影響も気になるところです。政権側は大統領が打ち出した対策の費用負担が80億~100億ユーロに達することを公表しました。それに伴い、欧州連合(EU)が加盟各国に求めている「財政赤字をGDPの3%以内に収める」というハードルをクリアできなくなる可能性が一部で指摘されています。

「マクロンはリスク要因の1つ」

フランスの高級紙「ル・モンド」は「マクロンの選択がベルリンとブリュッセルを不安に陥れている」との見出しを掲げた記事を掲載しました。ベルリンとはドイツ政府、ブリュッセルはEUをそれぞれ意味しています。

同記事では、ドイツの新聞が「エマニュエル・マクロンはもはや欧州やユーロ圏を救う(われわれの)パートナーではなく、リスク要因の1つになった」などと伝えていることを取り上げています。

マクロン大統領はこれまで、ドイツのアンゲラ・メルケル首相と欧州の団結の必要性を強調し、二人三脚で域内の各国をリードしてきました。が、自国の財政が悪化するようだと、EUに加盟する他国からの不満が噴出するシナリオも考えられます。

11日には、フランスのストラスブールで銃の乱射事件が発生。検察当局はこれをテロと断定しました。ストラスブールは「1つの欧州」の象徴ともいうべき都市。欧州議会の本会議場があります。内憂外患に直面するマクロン大統領。フランスの混乱は欧州全体を揺り動かそうとしています。

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