はじめに

2019年は狭いレンジでの攻防がメインシナリオ

一方、金融政策や金利の動向だけでドル円相場の値動きをすべて説明することはできず、市場のセンチメント(リスクオンあるいはリスクオフ)は無視できません。その意味では、来年1~3月期はリスクオフに振れやすく、円高リスクが高い時期と言えそうです。

具体的には、米中通商交渉の期限が2月末とされるほか、3月には新たな法案を通さない限り、米連邦債務の上限が復活します。ねじれ議会の中、政治ショーが先鋭化すると米国債の債務不履行など万が一の事態に備える動きが出てきてもおかしくありません。

また、年明け早々には日米物品貿易協定(TAG)の交渉がスタートすることになっており、米国側は「為替条項」をちらつかせ、日本側に譲歩を迫るという見方もあるようです。その他、不透明感が漂っていますが、予定では英国のEU離脱スタートは3月となっています。

もっとも、2018年のように日本発の円買い材料が浮上する展開を想定しておらず、その点において円の上昇余地は限定的であると考えられます。

つまり、市場センチメントで言えば、リスクオン時は円もドルも売られやすく、逆にリスクオフ時はドルも円も買われやすい傾向があるため、大きな値幅が出にくくなります。

円独歩高には円独自の買い材料が必要であると言え、結局、1ドル=110円を大きく割り込むような円高局面は想定していません。

大きく円安に振れる可能性は

一方、逆に大きく円安に振れるためには円独自の売り材料が必要です。場合によっては10月に予定されている消費税率の引き上げがそれに該当するかもしれません。

その理由の一つは、技術的に日本の物価が上昇するため、その分、円の貨幣価値が減価するという単純な理由です。

さらには、日本政府が景気の落ち込みを避けるため、政策を総動員する中で、日銀も相応の役割を求められる可能性はゼロではないでしょう。万が一、追加緩和的なことがあれば、当然、円安を支援することになりそうです。

最後に実需の動向ですが、貿易収支の悪化を受けて日本の経常黒字にピークアウト感が窺える一方、対外直接投資(海外M&A)は増加基調を維持することを想定しています。

日本の国際収支はすでに悪化に向かっていますが(下図)、2019年はこの傾向がより鮮明になる可能性も考えられます。2018年の後半、実需の円売りの根強さが円高の抑止力となりましたが、2019年も同様ではないでしょうか。

結論としては2018年同様、狭いレンジでの攻防がメインシナリオとなります。年前半に円の高値を試した後、円安方向へ水準を切り下げることを想定しています。なお、最大のリスクシナリオは原油価格の下落です。原油価格が一段と下落すれば、日本の対外収支が改善することで実需面から円高圧力が強まることになりそうです。

<文:投資情報部 シニア為替ストラテジスト 石月幸雄>

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