はじめに

今年もいよいよ残すところ、あと10日あまりとなりました。株式相場はさえない展開が続いており、このままでは日経平均株価が「アベノミクス相場」開始以来初めて、7年ぶりの年間下落となる可能性が高まっています。

無理もないことかもしれません。株式市場を取り巻く環境は、米中貿易戦争を筆頭に、英国のEU離脱の行方、米国の金融政策、中国景気の減速懸念など不透明感が満ちあふれています。そうしたなか来年は、世界全体の景気も悪化するのではないか、そうした不安が世界的な株安の根底にあるのだろうと思われます。

マーケットに「不安」は確かにあります。しかし、本当にそこまで景況感は悪いのでしょうか。


企業の景況感は悪化していない

例えば、先週金曜日に発表された日銀短観。大企業・製造業のDIは、悪化するとの市場の見通しに反して横ばいでした。これだけ米中貿易戦争が騒がれるなかで、企業の景況感が「悪化していない」というのは驚きだと思います。

先行きの見通しが悪化したことをもって景況感が悪いという声がありますが、企業は慎重なので先行きの見通しについては、たいていの場合、悪化の予想ですからさほど気にする必要はないでしょう。

ポイントは「現況」、すなわち足元の景況感についての回答です。こちらは現在進行形の状況ですから、「先行きの不安」が入り込む要素がありません。その回答が前回と横ばいということは、悪化していない、悪くなっていない、ということです。

実は筆者は、短観はそれほど悪化しないだろうと思っていました。なぜなら先行して発表された法人企業景気予測調査で、10~12月期の大企業全産業の景況判断指数(BSI)がプラス4.3(7~9月期はプラス3.8)となったからです。

プラスは2四半期連続。企業の景況感はまったく悪化していないのです。なぜでしょうか。根本的な理由として足元の景気が改善傾向にあるからだと思われます。

街角の景況感も悪くない

同じく先週発表された景気ウォッチャー調査。前月比1.5ポイント上昇し、51.0となりました。上昇は2カ月連続で、節目の50を上回ったのは2017年12月以来。夏の自然災害で7~9月期の実質国内総生産(GDP)改定値は前期比年率換算で2.5%減となりましたが、10月以降は景気は上向きになっています。

緩やかな所得増を背景に、消費が堅調であることが大きな要因だと思われます。直近の世帯消費動向指数(CTI、2015年=100)は前年同月比 4.4%の増加、前月比(季節調整値)では 3.6%増加と大きく伸びました。

景気と株は相関関係にある

10月の景気動向指数も大きく改善しました。一致指数が104.5と2カ月ぶりに上昇。前月からの上昇幅は2.9ポイントで、1989年3月以来の大きさでした。これは7~9月期に落ち込んだ反動ですが、それにしてもおよそ30年ぶりの高い伸びです。回復力が強いということでしょう。

従来から指摘していることですが、日経平均と景気動向指数の間には強い相関があります(下図)。景気がいいから株も上がるという、すごくシンプルだけれど、当たり前の関係があるのです。

これが統計から確認できる足元の状況です。消費は堅調で街角景気は改善しています。今年の冬のボーナスは過去最高と伝わっていますので、このトレンドは継続するでしょう。

景気動向指数を見る限り、秋口から日本の景気は大きく戻ってきています。そうしたなか企業の景況感は悪化していません。為替レートの実勢相場は、企業の想定よりずっと円安で推移していますから、今後為替の分だけでも企業業績は上方修正される公算が高いと思われます。

人手不足と企業の金余りの状況は変わらず、設備投資も引き続き出てくるでしょう。来年1月になり(といっても、もう来月のことですが)今の景気が続けば、戦後最長の景気拡大期間を更新し、世の中のムードは一段と良くなるでしょう。

世間にあふれるのは悲観的な見通しばかりですが、実際に改善の兆しがあることを見逃すべきではありません。

<文:チーフ・ストラテジスト 広木隆>

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