はじめに
40年ぶりに相続法が改正され、今年から実際に新法が私たちの生活にかかわってきます。
今まで人がなくなった場合、突然預貯金が引き出せなくなり、家族が困るというトラブルがありました。今回の改定でこちらも改定されます。どう変わったか、気を付けるべき点についてお伝えします。
「相続法はどう変わる?」第3回目は亡くなったときときの預貯金の対応です。新制度でできるようになったこと、今後気をつける点について解説します。
夫の死亡で預貯金が凍結されていた
一家の大黒柱が突然亡くなり、お葬式費用や当座の生活費を引き出しに行ったとき、金融機関の行員に死亡の事実を伝えた途端に、預貯金が凍結され1円たりとも引き出せなくなります。
これは、人が亡くなると、その瞬間にその財産は相続人全員の共有財産に変身してしまうためです。これが引き出せるようになるのは遺言があるか、遺産分割協議で相続人全員が合意した場合です。
なぜなら、いち早く窓口に現れた相続人が、自分の法定相続分を払い出してほしいと言っても、実は、分割協議の結果によってその相続人が引き継ぐ預貯金は無いかもしれないのです。金融機関は争いに巻き込まれないためにも、相続人全員の合意の署名・押印がそろった分割協議書がないと1円たりとも払い出しに応じませんでした。
とはいえ、分割協議が整うのを待っていては、亡くなった人に頼っていた相続人の生活が成り立ちません。
どう変わる?当面の預金の払い出し
今回の相続法の改定で、分割協議が成立していなくても、当面の生活費程度の払い出しが可能となりました。2つの方法があります。
(1)家庭裁判所に申し立てる方法
家庭裁判所に申し立てて、払い出せるようにする方法です。家庭裁判所に遺産の分割の審判や調停の申立てをすると、亡くなった方の借金返済資金や相続人の生活費など預貯金を払い出す必要があるかどうかを確認します。必要であるという判断がなされたときは、預貯金債権の全部又は一部を仮に取得させることができます。
ただ、相続人にとってこちらの方法は手間・時間がかかりますので、実務的には活用は少ないと思われます。
(2)直接、銀行窓口で払い出す方法
相続人は、各金融機関ごとにつぎの計算式による金額まで、他の共同相続人の同意がなくても単独で払戻しをすることができます。ただし、150万円が限度となります。
【計算式】 単独で払戻しをすることができる額=相続開始時の預貯金債権の額×1/3×法定相続分
この仮払い制度は平成31年7月1日から始まります。
この新制度で、とりあえずの生活費は確保できるかもしれませんが、やはり、あと2/3は分割協議が整わなければ、引き出せません。相続直後のお金が必要なときに遺族が困らないように、分割協議の必要がない方法も考えておきましょう。
たとえば、保険金、遺言代用信託、公正証書遺言、検認不要の自筆証書遺言等などは分割協議が整わなくても、比較的短期に現金化できる方法です。