はじめに

2018年は上下の値動きが激しい年となりました。日経平均株価は、一時1991年以来の最高値である2万4,286円10銭をつける場面もありましたが、蓋を開けてみると2018年の終値は2万14円77銭となり、2017年末と比較しておよそ-12%、2,750円安という結果となりました。

通年の騰落率がマイナスになるのは7年ぶりということもあり、初めて損失を抱えてしまった方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回は、投資で損失を抱えてしまったときに考えたいことについて検討します。


投資の実力は利益の大きさだけでは測れない

投資で実力というと、どうしても「いくら稼いだか?」という事実が取りざたされてしまうものです。しかしながら、プロの投資家や運用機関は、損益という側面だけでその投資が素晴らしかったかどうかを判断することはありません。

彼らは「市場の平均リターン」と勝負をしています。市場の平均リターンとは、大まかに言うと日経平均やTOPIXといったような指数の騰落率とおよそ一致するものです。これらのリターンを上回った投資家は、損失が出たにもかかわらず、「運用が効率的である」として高い評価を得られます。

相場の上昇局面でいかに利益を伸ばし、下落局面ではいかに資産を守ることができるかという観点が、投資の実力を測る上で重要です。もし、あなたの年間リターンが日経平均の-12%を上回っている場合は、概ね運用の効率が良いといえるため、落ち込むことはありません。

そもそも、投資が全て利益になることはありません。世の中では常に予想だにしないことが起こるものです。さらに、金融市場には海千山千のベテラン投資家や相当の人員・設備投資を伴った機関投資家がおり、彼らと同じレベルで戦おうとしても限界があります。

その際に大事なことは初心を忘れず、あくまでもマイペースに資産を運用していくことです。

あなたは何のために投資をしていますか?

ここで、ハインリヒ・ベルというドイツのノーベル賞受賞作家を紹介します。彼は、直訳すると「生産性の低下に関する逸話(原題:Anekdote zur Senkung der Arbeitsmoral,1963年)」という物語を綴りました。物語の登場人物は、気ままに暮らすメキシコ人漁師とビジネスの知見が豊富なエリート観光客の2人です。この物語は文量こそ短いものの、多言語に翻訳・脚色されるだけでなく学術的な文献等にも度々引用されるほど人気が高い作品です。要約すると、次のような内容です。

港のボートで横たわっている漁師を見つけた観光客は、今日の漁の成果について漁師に質問します。漁師は直近の生活に十分な4匹のロブスターと24匹の鯖という釣果に満足したため、朝のうちに釣りを終えたと答えます。

観光客は、彼によりよい生活を送ってもらおうと、「そこで満足せずに何度も漁に出れば数年で別の船を持ち、魚を加工する工場を経営することができますよ?最終的には、直接ロブスターをパリなんかに直接輸出できますし、そうしたらあなたは大企業の経営者です。もうあなた自身が漁に出る必要もなくなる」といったアドバイスをしました。

漁師はいまいちピンとこない様子で「それで?」と聞き返します。観光客は「それで……、そうしたらあなたは引退して何の不自由もなく太陽の下で静かに横たわり、綺麗な海を眺めることができますよ」と続けます。

しかし、漁師の返答は「それ、今もうやっていることだよ」というものでした。

(出所:ハインリヒ・ベル『生産性の低下に関する逸話(直訳)』より筆者が要約)

この物語は、私たちが本来の目的を忘れてしまいがちであることを示しているといえるでしょう。一度、ビジネスや投資にのめり込んで成果が出れば、成果自体が私たちの行動目標でなくても、その追求を止めることが難しくなります。逆に、成果が出なくなると、成果が得られないことについて落ち込んでしまいがちです。

漁師がビジネスマンになると、引退するまで、綺麗な海をのんびり拝むことは難しくなるでしょう。その過程でボートの債務を返せなかったり、工場が不況のあおりを受けて倒産したりといったことになってしまえば、今の生活を犠牲にして、何のために努力していたのかということになるでしょう。

投資についても同様です。筆者自身も、株価が気になって、他者とのコミュニケーションがおろそかになったり、為替レートや米国市況を気にするあまり、睡眠時間が取れず健康を害したりということがありました。筆者の本来の目的が「今よりも余裕のある生活を送る」だとしたら、投資で成果を追求するあまり会話が減り健康を害してしまうのは本末転倒と言えるでしょう。

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