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極端な円高警戒は時期尚早と言える3つの理由

根強い円高シナリオへの反論

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FRBの利上げ停止観測の強まりや米景気の先行きに対する過度の懸念後退、さらには米中通商交渉の進展期待を背景に、投資家の過度の警戒姿勢が和らいできました。足元のドル円相場は1ドル=109円台後半と、年初の急激な円高が進行する以前の水準を回復してきました。

ただ、米国の政府機関閉鎖が長期化して実体経済に影響を及ぼしつつあるとの見方が強まっているほか、英国の欧州連合(EU)離脱交渉も混迷の度を増していることなどから、円高リスクを指摘する声は絶えません。

市場では、2015年8月の中国人民元切り下げをきっかけにFRBが利上げを休止し、翌年秋にかけて1ドル=100円割れまで急速な円高が進んだことの再来を懸念する向きが多いようですが、今回は相応の円高抵抗をみせる公算が高いと判断しています。その理由をご説明します。


日米金利差への意識は途切れず

最大の理由は、日米金利差への意識が途切れない可能性が高いことです。月初に発表された米雇用統計が市場のムードを一変させたことにうかがわれるように、米国では良好な所得・雇用環境が維持されている模様です。

現行の米政策金利が、中立金利(景気に対して緩和的でも引き締め的でもない金利水準)とされる2.75%に達していないことなども踏まえると、足元でも米景気の屋台骨はしっかりしており、当面、米金利の低下余地は限られるとみるのが妥当と思われます。

一方の日銀は、金融正常化への道筋がまったく見通せない袋小路に迷い込んだようです。家計に染み付いたデフレ心理を完全には払拭できないうちに、原油安による影響が顕在化してきたうえ、政府が目論む幼児教育・保育の無償化や携帯電話利用料の大幅引き下げが実現すれば、日銀の物価目標はさらに遠のくことになるためです。

チャイナショックに端を発した円高が進行した2016年1~10月の日米金利差は名目で平均1.8%、物価を考慮した実質ベースでは同0.4%程度でした。それが足元では、縮小したとはいえ名目で2.7%、実質では1.6%に拡大しており、円を容易には買い進めづらい地合いを形成することとなりそうです。

投機筋のプレゼンス低下につながる

この高水準の金利差は、投機筋の円買い仕掛けを抑制する要因として機能する公算が高いことも、円高抑止力につながる見込みです。金利の付かない円を買って、相対的に高金利の通貨を売る取引においては、金利差拡大がコスト増に直結します。よほどの確信を持てなければ、円買いを仕掛けづらい状況と捉えられます。

投機筋の円売りポジションが大きく減少している可能性が高いことも、円買いに傾きにくくさせている一因と捉えられます。米政府機関の一部閉鎖の影響で、通貨先物の建玉発表が延期されていることから、あくまでも推測となってしまいますが、年明け早々の円急騰場面で、投機筋の円売りポジションの手仕舞いが膨らんだことは想像に難くなく、潜在的な円買い圧力も大きく低下していると考えられます。

本邦実需の旺盛な円売りニーズも健在

しかも、本邦実需のドル買いニーズにもさほど衰えはみられません。旺盛な海外企業買収(M&A)や経常黒字の縮小という需給要因に加え、国内における運用難と為替ヘッジコストの上昇を背景とする本邦機関投資家のオープン(為替ヘッジをしない)外債投資拡大の動きも重なっているためです。

また、円高進行ピッチが速まる場面では、GPIF(年金積立金管理独立行政法人)による外貨建て資産積み増しへの思惑が浮上しやすいことも、特筆すべき事象といえましょう。

足元、投資家のリスク回避姿勢はひところよりも和らいでおり、円は安全通貨ではなく、調達通貨としての色彩を取り戻しつつあります。不透明材料はなお山積していますが、米中対立緩和への期待が途切れない限り、極端な円高進行は回避される可能性が高いと考えています。

<文:投資情報部 堀内敏一>

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