はじめに
情報の非対称性が存在する
さて、ここまで読むと、1つ疑問は湧いてきませんか? もし投資家が全員、理論株価を同じ方法で算出し、全員が同じ答えを持っていたとすると、現在の株価が理論株価より安ければ、理論株価まで全員が買い上げ、理論株価より高ければ理論株価まで売り込まれるはずなので、最終的には株価は理論株価からずっと動かなくなるのではないかと。
しかし、実際にはどの企業の株価も常に動いています。では、なぜそのようなことが起きるのでしょうか。そもそも理論株価の算出方法自体が複数ありますし、先程の理論株価の算出方法でも、算出に使用する3つの要素のうち、利益と資産の額は企業の発表している決算短信や有価証券報告書の過去の数字ですが、もう1つの要素である企業の成長予想は、完全に主観によるところとなります。当然、類似企業のデータを見れば、予想結果は一定の範囲内に収まりますが、一致することは滅多にないのです。
また、全ての人が同じ情報を持っているわけではありません。投資判断の材料の根源は情報ですが、各人で持っている内容に違いがあるため、結果的にこの企業の株価が適正だと思う水準にバラつきが出るのです。
気を付けなくてはいけないのは、まだ多くの人が知らない情報を手に入れた時、儲かる!と思うかもしれませんが、インサイダー取引に該当しないかどうかもきちんと考慮する必要があります。
他者との競争意識
人によって判断材料が異なるため、理論株価は変わる、一方でそこまで理論株価に大きな差異は出ないともいいました。そうなると、また1つ疑問が湧きます。なぜバブルが起きるのか、ということです。
バブルとは、熱狂の中で何かが買い上げ続けられ、もはや理論的には説明できないところまで価格が上昇するような状況を指します。日本でも土地神話があった時代は、ひたすら不動産価格が上昇し、下がることはないかのように盲目的に買われました。古くは1600年代にオランダで起きたチューリップバブルまで遡ることができ、数百年前から現在に至るまで、世界各国でバブルは対象物を変えては起こってきたのです。
人間は他人と比べて自身の幸福度を測るケースが多く、周りが儲かると自分も乗ってやろうと思います。そして、自分が儲かると周りに吹聴し、それによって、また周りの人も乗っかっていきます。そうなると、もはや割安だから買うのではなく、盛り上がってるから自分も乗っかることになってしまうのです。
これがバブルの大まかな流れですが、更に不思議に思いませんか? バブルにはプロの投資家ですら乗っかっているのです。本来であればお客様のお金を預かって運用しているので、理論株価から遥か上方に離れた株価のついた銘柄には投資できないと思いませんか?しかし、実際にはそのようなバブルに乗っかるプロの投資家がいるのですが、これもまた他者との競争が影響しています。
簡単に説明して終わりにしましょう。もしAというプロとBというプロがいたとします。Aは明らかにバブルで割高なものの、世間が注目している銘柄を買いました。一方でBはお客様に投資した理由を説明できないとして、同じ銘柄は買いませんでした。そして、その後、半年間、ずっとバブルの流れに乗って、その銘柄の株価は上昇し続けました。さて、この半年間を経て、それぞれのお客様の反応はどうでしょうか?
Aに託したお客様は拍手喝采の一方、Bに託したお客様は怒り狂うでしょう。なんで、こんなにわかりやすい勢いのある銘柄を買っていなかったんだ!と。このようなことも考えると、目先の割安、割高という材料だけでは投資判断ができなくなるのです。
このように、さまざまな参加者のさまざまな判断に基づく投資判断が織り交ざっていくため、株式市場では常に株価が動き続けているのです。
連載「お金の育て方」
【1回目】なぜ資産運用をするのか?お金以外に得られるモノ
【2回目】投資における大事な5つのルール
【3回目】投資信託で踏み出す「投資」へのはじめの一歩
【4回目】未経験者が知るべき「株式投資の基本」