はじめに

創薬ベンチャーが変わりつつあります。先行投資の関係で、長らく赤字続きの企業ばかりが目立ちましたが、近年は黒字企業や高い利益成長を続ける企業さえも現れてきました。

背景にあるのは、製薬会社との提携の増加です。世界の創薬トレンドの変化がそれをもたらしました。この傾向は今後も続く見通しです。

開発も進んでいます。すでに承認されたものや、承認待ちのものなど、臨床段階の進んだ開発品が目立ちます。はたして、2019年はどんな重要イベントが見込めるのでしょうか。


創薬トレンドの変化がもたらした恩恵

日本でも、ようやく新薬開発に関わる創薬ベンチャーが育ってきました。日本のバイオベンチャーの歴史のスタートは2000年頃からで、米国から約20年遅れています。先行投資期間が長く、投資金額も大きいという性格上、長らく赤字続きの企業ばかりが目立ちましたが、近年は黒字が見込める企業や、既に黒字となり、高い利益成長を続ける企業さえも現れてきています。

背景にあるのは、製薬会社との提携の増加です。創薬ベンチャーの多くは、製薬会社と提携し、創薬技術や開発品を提供することで、契約収入を得るというビジネスを展開しています。この件数が2008年頃から増えてきました。理由としては、創薬技術の有用性の証明、開発品の安全性や有効性に関するデータの蓄積、世界的な創薬トレンドの変化があげられます。

特に、影響が大きかったのが、創薬トレンドの変化です。医薬品は、低分子医薬とバイオ医薬に分けられます。低分子医薬というのは、普段利用している飲み薬などのことで、化学合成によって作られます。一方、バイオ医薬はタンパク質、遺伝子、細胞などの生体物質を利用したものです。

低分子医薬は100年以上の歴史をもち、医薬品といえば低分子医薬という時代が続きました。ところが2000年代に入り、変化が現れます。世界医薬品売上高ランキング上位10品目の中にバイオ医薬が割り込んできたのです。特に注目すべきは2008年です。この年に、10品目中半数をバイオ医薬が占めるに至りました。それ以降、バイオ医薬の勢いが増し、現在は、10品目中、7品目がバイオ医薬になっています。

低分子医薬の開発は製薬会社が中心ですが、バイオ医薬はベンチャー企業が強い領域です。製薬会社が苦手とするバイオ医薬の台頭を受け、それまで創薬で自前主義を貫いてきた製薬会社が、戦略の見直しを余儀なくされました。外部資源を積極的に活用するオープンイノベーションへの転換です。その結果、製薬会社と創薬ベンチャーの役割分担が明確化し、提携が増えました。

開発も進展

開発品の進展も見られます。再生医療製品(自家培養軟骨、自家培養表皮など)やバイオ後続品(好中球減少症治療薬など)といったバイオ医薬はもとより、低分子医薬もCOPD治療薬、緑内障治療薬、抗がん剤など、すでにいくつか承認されており、重症虚血肢を対象とする遺伝子治療など、承認待ちのものもあります。
 
ほかにも、第3相臨床試験の終了が近いものや、第3相へ進む準備を行っているものなど、臨床段階の進んだ開発品が目立ってきました。

開発の進展は、収益にも影響します。提携済みの開発品であれば、承認されればロイヤリティや製品売上の計上、臨床段階が進めばマイルストーン(成果達成報酬)の獲得が見込まれ、提携していないものは、提携による契約金獲得の可能性が高まります。

2019年に期待される重要イベントは?

さて、今年の創薬ベンチャーは、どんな話題を提供してくれるのでしょうか。まず、開発に関して、承認可否、承認申請、臨床試験結果など、重要イベントが目白押しです。

承認可否では、ジーンテクノサイエンス(証券コード4584)のバイオ後続品(腎性貧血治療薬)、承認申請では、タカラバイオ(4974)の抗がんウイルス製剤(対象はメラノーマ)、スリー・ディー・マトリックス(7777)の止血材(対象は消化器内視鏡領域)、第3相臨床試験の開始では、Delta-Fly Pharma(4598)の抗がん剤(対象は急性骨髄性白血病)、臨床試験結果では、ナノキャリア(4571)の抗がん剤(対象は胆道がん)の欧米での第2相試験の結果などに注目しています。

提携にも期待しています。タカラバイオの抗がんウイルス製剤に関する米国でのライセンス契約、カイオム・バイオサイエンス(4583)の抗体医薬(対象は糖尿病黄斑浮腫など)に対するカナダのSemaThera社によるオプション権の行使などが注目され、提携の常連ともいえるペプチドリーム(4587)も、これまで同様、特殊ペプチド創薬技術での複数の共同研究開発契約などが見込まれます。

<文:企業調査部 山崎清一>

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