はじめに

まだまだ寒い日がありますが、この時期は“三寒四温”ともいわれ、暖かい日も増えてきます。春への移ろいが感じられると、気持ちも朗らかになる方も少なくないでしょう。その一方で、暖かくなると花粉が飛び始め、花粉症が心配な方も少なくない時期です。

実は、この花粉の飛散量は、この時期の株価にも影響を与えるという見方があります。しかも、その見方はポジティブだというもの、ネガティブだというもの、正反対に分かれています。

いったい、どちらが正解なのでしょうか。データを基に、検証してみたいと思います。


花粉にまつわる2つの通説

今年の花粉飛散量はどのくらいになるのでしょうか。さまざまな調査機関から予測が出されていますが、東京都が今年の1月に開催した花粉症対策検討委員会では「例年の1.2倍程度」と発表されました。例年より多い予測です。

花粉を飛ばすスギの雄花は、7月頃から作られ始め、秋にかけて成長します。昨年の夏に経験した猛暑の影響で雄花が大量に作られたため、今年の花粉が増えると見られているのです。

花粉が多いと見込まれる年は、株式市場では「花粉症関連株」が注目されます。花粉症対策の薬や目薬、マスクなどが売れると考えられるためで、それらを作っている会社の株価が上がる傾向があります。花粉症の方にはまったくうれしい話ではないのですが、株式市場では、注目材料があるのは相場にポジティブな影響となってきます。

一方、この連載でもよく取り上げる、行動経済学の観点で考えてみましょう。行動経済学にはさまざまな分野がありますが、わかりやすくまとめると「多くの人々の気持ちを暗くさせることがあると、一見、株価に関係なさそうでも、相場が下落する」ということです。

今回の花粉症でいうと、こんな感じです。花粉が多く飛んでいると、花粉症に苦しむ投資家も増えてしまいます。気持ちが憂鬱になると、経済の行方や株価動向を前向きに考えにくくなる。すると、積極的に投資に臨む投資家も減ってしまい、株価が下落するというものです。

また、消費の面からも株価に良くない影響が出てきます。花粉が多く飛んでいると、外出を控える人も増えてしまうからです。外でお金を使わなくなるため、消費が低下してしまいます。これは株安の要因です。

花粉がとりわけ多かった2018年

話を整理しましょう。今回は2つのまったく反対の“仮説”が生まれました。1つは「花粉が多いと花粉症関連を牽引役として株高になる」という仮説。もう1つが「行動経済学と人々の消費の観点から株安になる」という仮説です。どちらが正しいでしょうか。

まずは、花粉のデータです。過去からの長期データが取得できるウェブサイトは多くありませんので、今回は環境省のデータを使いました。この時、毎年同じ場所での観測値を取る必要があります。そこで、2004年から継続的に取得できる関東の場所として、埼玉県の飯能市役所のデータを使いました。

このデータですが、2004年から1時間おきの花粉数(花粉濃度:1立方メートル当たりの花粉数)が提供されています。これを使って月間の平均値を求めました。

【図1】花粉のピークはおおむね3月
【図1】花粉のピークはおおむね3月

図の右上の2018年3月は3,868個となっています。これは毎日、その日で最も花粉が多く飛んだ時の花粉数を取ってきています。そして、3月1日から31日までを平均しました。前年の同じ月(2017年3月)の411個と比べて、9.4倍になっています。

昨年5月に東京都が公表した「スギ・ヒノキ花粉の観測結果」では、2018年は過去10年間の平均の約2.4倍でした。スギ花粉の飛散数は過去10年平均の約1.5倍、ヒノキ花粉は過去10年平均の約5.9倍と、特にヒノキ花粉が多かったようです。

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