はじめに
「資本のねじれ」が生む歪みが増大
子会社が親会社よりも力を持った状態を「資本のねじれ」といいます。日本で過去の例を挙げると、「イトーヨーカ堂がセブンイレブンの親会社だった」「ニッポン放送がフジテレビの親会社だった」ことが、これにあたります。さまざまな問題を生んだので、今は資本を組み替えて、ねじれを解消しています。
力をつけた日産がルノーの子会社であるという「資本のねじれ」が今、さまざまな問題を生んでいます。ゴーン氏は当初、日産の収益回復に全力を尽くしましたが、ルノーのCEOを兼務するようになってから、次第にルノーの利害で動く面も見られるようになりました。その矛盾は、次第に無視できないものになりつつありました。
フランス政府は、ルノーに15%出資する大株主です。この出資比率を30%に高めるとともに、日産をルノーの完全子会社にし、フランスに製造拠点を移させることを構想するようになっていました。
ゴーン元会長はこの構想に反対し、日産を守っていたと言われますが、それでもフランス政府の意向をくんで動かざるをえなくなっていたと考えられます。日産の製造拠点をフランスに移すよう、誘導していた可能性もあります。
日産とゴーン氏の根本的な問題
今から10年以上前ですが、私は日産自動車の経営説明会で、ゴーン元会長のプレゼンを何回も聞きました。よく聞いたのは「人件費の高い国には投資しない」という話です。日本ではなく、メキシコなど新興国に積極投資していく戦略を説明するときに出てきました。
それは、日産が生き残るために必要なことだったかもしれません。ただ、フランスに生産を移していくという今の戦略は、当時聞いた話から考えると整合性がありません。フランス政府の意向が、日産の経営の舵取りに影響している可能性があります。
私は、ゴーン元会長がルノーの会長を兼務するようになった2005年以降、少しずつ日産ではなくルノーとフランス政府の方を向いて仕事をするようになっていったと考えています。そんな元会長に経営の全権を与えてしまったのが、日産自動車の問題だと思います。
政治リスクに翻弄される自動車株
日産だけでなく、自動車関連株はトヨタやホンダもPER(株価収益率)、PBR(株価純資産倍率)から見て、割安なバリュエーションに据え置かれています。中でも、日産の低評価が際立っています。
貿易戦争でターゲットになる不安、世界景気が減速して業績が悪化する不安が、自動車株全体の低評価につながっています。それに加えてもう1つ、自動車株の低評価につながっている不安があります。
将来EV(電気自動車)が広く普及することによって、ガソリン車のエンジン(内燃機関)を作るインフラが無用になるという不安です。確かに10~20年後を考えると、その問題は無視できません。ただ、私はやや不安が先走り過ぎていると感じています。現在は世界の車のほとんどはガソリン車で、年々販売台数が増加している事実があるからです。
世界の自動車業界で高い競争力を持つトヨタ、ホンダ、日産には、一定の投資ポジションを持っていいと思います。しかし、自動車株にばかり、たくさん投資するのも問題です。トヨタかホンダか日産、どれか1つでいいと思います。