はじめに
検索データから浮かび上がった実態
ヤフー社内でプロジェクトが始まったのは、今から半年ほど前。これまでも、検索すると募金ができる取り組みや、防災情報の発信などを進めてきましたが、社会全体の防災意識が高まり災害備蓄も進む中で、もう一歩前に進むべき時期ではないかと考えたそうです。
そこで目を付けたのが、東日本大震災の発生後1週間、宮城、福島、岩手の3県で何が検索されたのか、というデータでした。「ビッグデータカンパニーとして、データはわれわれの資産であると同時に、社会に還元していくべきものだと考えています」(西田執行役員)。
たとえば、「おむつ」「粉ミルク」といった育児用品は、男女とも30代が最も多く検索しており、現地では育児用品が不足し、入手できる場所を中心に検索していることがわかりました。また、「停電 トイレ」は女性が全体の6割を占め、停電時のトイレの使用方法や流し方が検索されたとみられます。
【東日本大震災発生時のYahoo!検索ワードデータ】
(注)2011年3月11日から17日に宮城県、岩手県、福島県でのYahoo!検索(出所)ヤフー
このように、性別や年齢、家族構成、生活環境によって、災害時に必要な情報は異なります。しかし、地震という大きな課題の前に、属性ごとの課題は埋没しがち。
「これまで防災グッズといえば乾パン、水、充電バッテリーを思い浮かべる人が多かったと思います。しかし、ライフスタイルは画一的ではありません。防災も人それぞれの特徴に最適化していくべきと考えました」(同)
災害より避難所で亡くなる人が多い現実
今回のプロジェクトは、ダイバーシティ研究所所長で復興庁の復興推進参与も務める田村太郎氏が監修。同氏が災害時の支援活動や被災者への調査で得たファクトに基づいて、防災カードを構成しました。
「災害時対応では、スピード(速く届ける)、ボリューム(たくさん届ける)が重要視されがち。でも、100人もいれば、同じ弁当が食べられない人もいます」。田村氏は現状の問題を、こう指摘します。
たとえば、毛布だけを例にとっても、1枚で十分な人もいる一方、3枚欲しい人もいます。個々人に最適化された対策が取られなかった結果、災害では生き延びたのに、避難生活で命を落としてしまうケースも少なくないそうです。
また、同じ人でも、どこにいる時に災害に合うかで、必要なモノが異なると、田村氏は指摘します。そこで今回のプロジェクトでは、場面別の情報カードも含めたといいます。
「熊本地震では、災害で亡くなった人よりも避難生活で亡くなった人のほうが多かった。防災の考え方を変えないといけません。災害時こそ多様性配慮が大事になります」(同)
日本人の災害対応意識を変えるか
「今回の143パターンはプロトタイプ。まだまだ用意しないといけません」と、ヤフーの西田執行役員は口元を引き締めます。そのうえで「今回の取り組みをきっかけに『私はこういうモノを求めている』という声も寄せられると思うので、それを踏まえながら、徐々に形にしていければ」と、言葉を継ぎます。
ヤフーの西田執行役員(右)と監修を担当したダイバーシティ研究所の田村所長
六本木で始まった小さな一歩は、日本人の災害対応に対する意識を変える一歩となるでしょうか。会場を訪れてみると、今まで気づいていなかった多様化時代の防災について意識を向ける、良いきっかけになるかもしれません。