はじめに
「育てている人全員が笑っている」
「毎日毎日、唐辛子を削る羽目になるとは思わなかった」と、廣畑さんは笑います。そして、こう言葉を継ぎます。「結局、このプロジェクトが失敗したという話になってもいいと思っています。何かやらないと、この街のことが話題にもならないから」。
小高区では、唐辛子を育てることがきっかけとなり、お年寄りと若い人とのコミュニケーションが生まれているといいます。生育方法から実の出来栄えまで、唐辛子が帰還した住民の話のタネになっているのです。
帰還住民のコミュニケーションを媒介する唐辛子
廣畑さんは「唐辛子を育てている人、全員が笑っている」と目を細めます。「去年失敗したから、また植える」と言ってくれる人もいるそうです。
「86歳のお年寄りに『来年も(苗を)作るんだろうな』と言われたんです。『はい、作ります』と返しました。そう答えないわけにはいかないよね」(同)
小高ストアに灯る、もう1つの“ともしび”
小高ストアには、みらいチャレンジプロジェクトとは別の棚があります。ストアの近くにある県立小高産業技術高校の生徒に管理を任せている、お菓子売り場です。
地元の高校生が作成したポップ広告
授業の一環で、高校生が仕入れをして、自分たちでポップ広告を作成し、販売データを彼らにフィードバック。それを受けて、棚の商品を入れ替え、売れ行きがどう変わるのかを検証しています。売り上げの良かったチームは表彰もしているそうです。
「地元の高校生は一番大事。この街の未来だからね」と、丸上青果の岡田代表は語ります。
「儲けなくてもいい。商売だけど、奉仕の気持ちが強い。赤字になったらやめますか、くらいの気持ちです。自分たちがいなくなっても、地元の人たちが小高ストアを運営するような“直売所の進化版”になってもらいたい」(同)
実は、廣畑さんも小高ストアの常連。店をのぞいて、自分のところの商品が少なくなっていると「あー、後で持ってくるね」と言ってくれるそうです。
廣畑さんたちが灯した唐辛子の“ともしび”。それが故郷を離れて暮らしている人たちにとって、帰還の“道しるべ”になってくれることを願わずにはいられません。